研究課題/領域番号 |
16H02151
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
俣野 博 明治大学, 研究・知財戦略機構, 特任教授 (40126165)
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研究分担者 |
宮本 安人 東京大学, 大学院数理科学研究科, 准教授 (90374743)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 解析学 / 関数方程式論 / 非線形偏微分方程式 / 反応拡散系 / 解の特異性 / 進行波 / 定性的理論 |
研究実績の概要 |
1. 非等方的な非線形拡散項をもつAllen-Cahn型方程式に対する初期値問題を考察し,コンパクトな台をもつ初期値から出発した解の広がり波面の性質を調べた.具体的には,広がり波面の形状がWulff図形に近づくこと,および波面の付近での解のプロファイルが平面進行波のプロファイルに近づくことを示した(ミネソタ大学の森洋一朗氏と岩手大学の奈良光紀氏との共同研究).空間等方性をもつ通常のAllen-Cahn型方程式の場合は,波面付近での解のプロファイルはある程度知られていたが,その証明は方程式の空間等方性に本質的に依存していた.本研究では,リウビル型定理を用いたまったく新しいアプローチにより,非等方の場合へ結果を拡張することに成功した. 2. 空間周期的な非線形項をもつ区間1次元半線形拡散方程式の解の漸近挙動が,「進行テラス」の概念を用いて分類できることを以前の研究(Trans.AMS, 2014)で示していたが,本研究では,当時未解決であった進行テラスの一意性を証明するとともに,速度が負のテラスも扱える形に理論を一般化した. 3. 捕食者被食者系は,数理生態学モデルとして長年研究されてきた反応拡散系のクラスであるが,その研究は,主として有界領域上のパターン形成や,進行波に重点が置かれており,コンパクトな台をもつ初期値から出発した解の広がり波面の性質は,長らく未解明であった.本研究により,被食者と捕食者の波面の広がり速度が,初期値の選び方によらず確定し,二つの広がり速度が異なるケースもありうることを明らかにした.
宮本は,一般化相似変換(疑相似変換)による半線形楕円型偏微分方程式の極限方程式を導いた.非線形項の増大度が非常に大きい場合には,従来の相似変換では対処できなかったが,一般化相似変換と交点数の理論を用いることによって,球対称解の分岐構造を決定した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
代表者の研究については,発表論文(印刷中を含む)3篇に加えて,次の3篇の論文を投稿済みである. (1) 体積保存型のAllen-Cahn方程式に対する特異極限問題の研究(パリ南大学のDanielle Hilhorst氏らとの共同研究) (2) ランダムなノイズ項のあるAllen-Cahn方程式の特異極限問題(クレタ大学のGeorgia Karali氏らとの共同研究) (3) 空間1次元半線形拡散方程式の解のダイナミクスの分類(ミネソタ大学のPeter Polacik氏との共同研究) これとは別に,質量保存則をみたす強順序保存系の解の定性的理論(荻原俊子氏らとの共同研究)の論文は,2019年度に入って投稿することができた. 一方,無数の穴の空いた壁を通過する双安定型進行波面に関する研究(H.Berestycki氏らとの共同研究)は,2018年度の完成を見込んでいたが,研究内容が当初の予定よりも大きく広がり,新しい興味深い発見があったため,それらをまとめるのに時間がかっている.具体的には,波面が壁の穴を通過できるかどうかについて,非常にシャープなdichotomyが成り立つことを発見し,それを用いて,問題の本質にさらに深い観点から光をあてることができた.理論の基本的な部分ははすべて完成しているが,論文完成に向けて,さらに細部を煮詰める必要がある.今年度前半の完成をめざしている.これと同様に,臨界型非線形熱方程式のソリトン分解に関する研究(フランスのF.Merle氏との共同研究)も,当初の計画になかったソリトンを3つ持つ解の存在証明を論文に含めることにしたので,論文完成に時間がかかっているが,これも夏までの投稿を目指している. このように,一部のテーマについては,新しい発見等により,論文完成に時間がかかっている場合もあるが,全体的に見ると研究はきわめて順調に進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
理論の概要がほぼ完成している上記の2件の研究(臨界型非線形熱方程式の球対称解のソリトン分解に関する研究,および無数の穴の空いた壁を通過する進行波面の究)は,研究自体は完成しており,あとは論文の細部を詰めるだけなので,夏頃までに投稿できる見込みである.次に,これらの研究をさらに発展させる形で,以下の二つのテーマの研究を進める. (1) 無数の穴の空いた壁を通過する双安定型進行波面の問題において,穴の大きさや穴と穴の間隔を限りなく小さくした均質化極限問題 (2) 臨界型非線形熱方程式のソリトン分解の理論を,球対称性をもたない解に拡張する.
これらの研究と平行して,障害物が波面の進行を促進するという,一見逆説的な予想が成り立つことを確かめる.具体的には,Allen-Cahn型の拡散方程式および駆動項をもつ平均曲率流の二つの方程式に対して上の予想が成り立つことを示す.これらとは別に,最近,3種反応拡散系(未知関数が3つの反応拡散系)について興味深い予備的知見が得られており,その研究を研究協力者の森龍之介氏らと一緒に進める予定である.
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