研究課題/領域番号 |
16H02179
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中村 隆司 東京工業大学, 理学院, 教授 (50272456)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 実験核物理 / 不安定核 / 中性子過剰核 / ダイニュートロン |
研究実績の概要 |
本研究では、中性子過剰核の表面に存在すると予言されている強く相関した2中性子系「ダイニュートロン」と、その放出による核崩壊過程「ダイニュートロン崩壊」の探索を目指している。これらはその存在が未確定であるが、観測されれば中性子過剰核の一つの重要な特性となるため注目されている。本研究では、ダイニュートロンの存在が実際に予言されている非束縛中性子過剰核「酸素26(26O)」を不安定核反応で生成し、その崩壊過程を、1)スピン相関と2)空間的相関の両方を観測することにより調べる。計画している実験では、不安定核研究の世界的拠点となった理研RIBF(RIビームファクトリー)において、核子あたり250MeVのフッ素27(27F)の一陽子分離反応を用いて26Oを生成する。本予算で導入する世界初となる「二中性子偏極度計」を用い、26Oより放出される2個の中性子の1)スピン相関と2)空間的相関を観測する。本実験により核内ダイニュートロンの有無が判定できると期待される。 平成29年度の当初計画では、i)二中性子偏極度計の最適化、ii)実験計画の詳細の策定、iii)二中性子偏極度計の開発、iv)偏極度計のプロトタイプのテスト、v)偏極度計の信号処理回路の検討を行うこととしていた。これに対する実績は以下の通りである。i)iii)iv)に対しては、宇宙線およびRIBFにおけるプロトタイプの性能評価実験により、偏極度計の基礎データ取得に成功した。新たに開発したシミュレーションとの比較から性能を定量的に評価した。ii)に関しては、26Oのダイニュートロン崩壊の探索を目指す実験計画を策定し、理研RIBFに申請し、同プログラム委員会で高い評価を得、採択された。v)に関しては、共同実験を行っているドイツのグループとの打ち合わせを重ね、集積化した信号処理回路の導入が可能であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の当初計画では、i)二中性子偏極度計の最適化、ii)実験計画の詳細の策定、iii)二中性子偏極度計の開発、iv)偏極度計のプロトタイプのテスト、v)偏極度計の信号処理回路の検討を行うこととしていた。これに対し、実績は以下の通りである。i)iii)iv)に対しては、宇宙線を用いてプロトタイプ検出器の性能評価実験を行った。さらに、理研RIBFにおいて不安定核反応で放出される高速中性子を用いて性能評価実験を行った。以上の実験により、偏極度計の基礎データの取得に成功した。特に、後者の実験で検出器内での中性子の散乱方向を観測するために必要となる反跳陽子の飛跡同定に成功したことは特筆すべきである。ハフ変換法による飛跡同定法を開発し2個の中性子の分離にも成功した。さらに、新たに開発したシミュレーションとの比較も行い、複数個の中性子を検出する性能を定量的に評価した。以上の結果は、研究代表者の研究室の修士課程学生により修士論文としてまとめられたが、これは所属専攻の最優秀修士論文賞に選ばれた。また、この成果は物理学会でも発表された。ii)に関しては、26Oのダイニュートロン崩壊の探索を目指す実験計画を策定し、理研RIBFに申請し、プログラム委員会で高い評価(グレードA)を得、採択された。一方、大阪大学核物理研究センターでは、準単色中性子を用いて行う検出器のテスト実験が同施設のプログラム委員会で高い評価を得、採択された。v)に関しては、共同実験を行っているドイツのグループとの打ち合わせを重ね、集積化した信号処理回路の導入が可能であることを確認した。H29年度の前半には実際にそのテストを行う予定である。 以上の実績から、今年度はおおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、中性子偏極度計の開発・建設を進めること、完成後にはRIBFで採択されている「26Oの二中性子崩壊」の実験を行い、ダイニュートロンの証拠をつかむことを目指す。 平成29年度は、i)前年度までに開発した2中性子偏極度計のプロトタイプのテスト実験を、大阪大学核物理研究センター(RCNP)で得られる250MeVの準単色中性子ビームを用いて行う予定である(H28年度にこの実験提案は同施設のプログラム委員会で高く評価され、採択されている。) ii)二中性子偏極度計(本機)の仕様について、前年度までに行った性能評価実験やシミュレーション、H29年度に行うRCNPでの性能評価実験の結果をふまえて、詳細検討を行い、これを決定する。決定した仕様をもとに、設計し、建設を進める。本機についても、宇宙線を用いたオフラインでの性能確認実験を行う。 iii)ドイツGSIで開発された信号処理回路を導入し、これをプロトタイプ検出器でテストする。さらに建設する本機にも実装する。 平成30年度以降は、本機の建設をさらに進め、これを完成させ、26Oの2中性子崩壊実験を行う。そのオフライン解析からダイニュートロン相関、およびダイニュートロン崩壊の有無を確定させる。得られた成果は、欧文学術誌や国際会議で発表するとともに、インターネット等を通じて、一般向けにも広く発信する。
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