研究課題/領域番号 |
16H02182
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高柳 匡 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (10432353)
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研究分担者 |
疋田 泰章 京都大学, 基礎物理学研究所, 特定准教授 (80567462)
西岡 辰磨 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (90747445)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 超弦理論 / ゲージ重力対応 / 場の理論 / 量子情報 |
研究実績の概要 |
研究代表者は、重力理論の空間を二つに分けたときに生じ、重力理論特有の古典論におけるエントロピーを与えるいわゆる「エッジモード」の起源を探る研究を行った。Hayward項と呼ばれる180度ではない角度で交わる時空の境界が存在する場合に生じる重力理論の作用の項がエッジモードを記述することに着目し、重力理論の波動汎関数の視点からエントロピーの起源を明らかにした。また、局所クエンチを空間的に離れた二点で行った系を二次元共形場理論とゲージ重力対応で解析し、エンタングルメント・エントロピーの振る舞いを計算した。その結果、その二点間の万有引力は、ゲージ重力対応を通じ、共形場理論のエンタングルメント・エントロピーの和則の破れとして理解できることを見出した。 研究分担者の疋田は、行列拡張した高階スピン重力の対称性を、量子効果も含めた形で解析した。高階スピン重力は超弦理論の高エネルギー極限を記述すると考えられており、行列化することで膨大な数の高階スピン状態を説明できる。我々が提唱したAdS/CFT対応の検証として、量子効果も含めて対称性の対応が成り立つ強い証拠を昨年度得ている。本年度は、偶数スピンの場のみをもつ理論や超対称性をもつ理論への拡張を行なった。さらに、スペクトルの比較などにより、対応のより強い証拠を得た。研究分担者の西岡は、Minkowski 時空上の共形場理論における演算子積展開とそのホログラフィックな記述法に関する研究を行った。二つのスカラー演算子が互いに空間的に離れている場合、その演算子積展開は一次元高いAdS 時空上を伝搬する粒子をある曲線に添って積分したもので与えられることを一般的に示した。一方、二つの演算子がに時間的に離れている場合の演算子積展開についても解析した。この結果は先行研究で予想されていたものと異なる新たな見方を与え、共形場理論の因果構造を強く反映している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の主目的はゲージ重力対応の基礎原理を解明することであるが、まず本年度の研究代表者らの研究成果により重力理論のエッジモードの新しい記述法が得られたことは特筆すべきである。スカラー場やフェルミオン場やQCDのような通常の場の理論ではエントロピーは理論を量子化して初めて生じる。しかし重力理論では古典論のレベルでブラックホールのエントロピーに代表されるエントロピーが現れることが良く知られているが、重力理論の度の自由度から生じるのかは今でも解明されていない。この重力理論の根本的な問題に、大きく貢献したことは当初は想定していなかった重要な成果と言える。そのほかにも研究代表者は、「二重クエンチのゲージ重力対応から重力の相互作用を共形場理論の立場で解釈を与えた研究」、「ゲージ重力対応におけるエンタングルメントウェッジの共形場理論からの導出」、「純粋化エンタングルメントの自由スカラー場やイジング模型における数値計算」など多くの重要な研究成果を挙げた。Physical Review Letter誌の二本の論文を含む合計六本の論文を出版し、米国やスペインやドイツなどの国で開催された国際会議で五回招待講演を行った。研究分担者の疋田は、行列拡張した高階スピン重力理論の量子補正に関する重要な成果を挙げた。これはゲージ重力対応における量子重力の効果の理解への大きな貢献といえる。また研究分担者の西岡は、共形場理論の基礎的な性質である演算子積展開をゲージ重力対応を用いて表し、因果構造を明らかにする重要な研究業績を挙げた。以上のように本年度は、当初の計画以上にゲージ重力対応の基礎的側面に関して多方面に研究成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
ゲージ重力対応において、量子情報量を意味するエンタングルメント・エントロピーは、重力理論の宇宙における極小曲面の面積として計算される。面積が分かれば計量も計算できるので、重力理論のダイナミクスは量子エンタングルメントのダイナミクスと等価であることをゲージ重力対応は予言する。この関係についてはこれまで多数の研究がなされてきたが、静的なユークリッド時間の時空か、実時間の時空にその対象は限られてきた。言い換えると、ユークリッド時間で非自明な発展をする空間のゲージ重力対応に関しては、このような極小曲面の解釈は与えられてこなかった。しかし、研究代表者らの現在進行中の研究において、ユークリッド時間で非自明な発展をする空間の極小面積はブラとケットに別の量子状態をとって定義される「拡張された密度行列」に対するエンタングルメント・エントロピーと解釈されることが分かった。そこで、本年度は、この一般化されたエンタングルメント・エントロピーとゲージ重力対応の関係について様々な角度から解析を行いたい。量子計算複雑性や純粋化エンタングルメントと呼ばれる量もゲージ重力対応との密接な関係が最近注目されている。前者は、重力理論の時空の時刻一定面の体積、後者はエンタングルメント・ウェッジの断面積に対応すると予想されている。そこでこれらの量を場の理論で解析することはゲージ重力対応の理解を深める上で重要であり、自由スカラー場理論や自由フェルミオン模型で具体的これらの量を計算する研究を本年度行いたい。以上に加えて、ゲージ重力対応の基礎原理の解明を目指して、厳密に解ける模型である高階スピン重力理論と共形場理論の対応や、測地線ウイッテンダイヤグラムを通じた場の理論と重力理論の対応の研究も行う。
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