研究課題/領域番号 |
16H02192
|
研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
西口 創 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (10534810)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 素粒子実験 / 放射線検出器 / ミューオン / ガス検出器 |
研究実績の概要 |
素粒子標準理論を超える新物理に優れた感度があると期待されるミューオン=電子転換過程探索実験の感度を向上させるため、飛跡検出器の高感度化を目指す。特に、同過程の信号事象は105MeVという低エネルギー電子であるため、飛跡検出器の構成素材の低物質量化が鍵を握る。そこで本研究では、先に準備研究で実現した真空中で動作可能な20ミクロン厚9.5mm径ストローによる比例計数管を多数実装して大型化し、「真空中で動作可能な飛跡検出機」へと発展昇華させ、ミューオン=電子転換過程探索実験の感度を劇的に向上させることを目指す。また、準備研究で実現に及ばなかった12ミクロン厚・5mm径という薄膜・小口径ストロー比例計数管を実現し、究極の軽量化飛跡検出器の実現を目指す。これにより、J-PARCで実施予定のミューオン=電子転換過程探索実験の感度を最終的に10,000倍向上させることを目指す。 そのため、20ミクロン厚・9.5mm径の導電性薄膜ストローを用いた飛跡検出器を建設する。H29年度にはその準備のため、2つの研究ー(1)読出し回路の放熱機構開発・(2)実機の力学的構造体検討、を主に進めた。本研究では薄膜の採用により検出器の低物質量化を実現したが、更なる低物質量化のため、これを真空中に設置する。ここで、真空中では読出回路で生じる熱が問題となるため、回路を検出器活性ガスを導入する多岐管内に設置し、活性ガスによる放熱促進の研究を進めた。これはH29年度に完了し、実機での回路放熱への対策が完成した。また、ストロー飛跡検出機構造体の設計を進めた。20ミクロンという極めて薄い膜厚のためにストローが容易に変形してしまうため、これを抑制するための張力の印加が不可欠である。この構造体では、それらの大きな印加張力を安定に保持するための力学的構造検討を進めた。以上により、H30年度には予定通り実機の建設を開始する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
飛跡検出器建設に向けた準備を進めている。H28年度には、回路の放熱機構開発のための真空チャンバーを製作したが、H29年度にはこのチャンバーを用いて、回路放熱機構の開発を進めた。特に、このチャンバーへ実際の回路を設置し、検出器活性ガスをこれへ導入して、本実験と同等の環境を実現した上で開発を進めた。一般にガスの熱容量は小さく、ガスをフローしただけでは回路で生じる熱(約90W/検出器)を十分に放熱することは出来ない。そこで、(1)回路に銅製ヒートシンクを設置して吸熱を促進、(2)ヒートシンク周囲に大流量のガスを導入して放熱を促進、(3)更にガスを導入前に冷却することで系全体の温度を下げる、という3段階の冷却機構を開発した。3つの放熱・冷却機構を組み合わせることで、実機で想定している放熱を十分に除去出来ることを実験的に実証した。これで放熱機構を含む、検出器のフロントエンド部分の実機建設準備は整った。 また、実機ではストローの変形を抑制するための張力印加機構が必要で、そのために生じる応力を考慮した力学的構造体の設計が必須である。H29年度にはこの設計を進め、H30年度初頭より実機構造体の製作に取りかかれる。 以上により、実機建設の準備が整った。実機の建設はH29年度末に開始する計画であったが、追加の放熱機構の開発を行ったため、計画よりも3ヶ月後ろ倒しになっている。しかし、放熱機構の開発は検出器の安定動作には必須であり、当初フロントエンド部は別途開発する予定であったため、研究計画全体としては概ね予定通りである。
|
今後の研究の推進方策 |
H29年度までの研究で、実機の製作準備は整った。H30年度は、年度当初より実機構造体の製作を開始する。また、構造体へ導電性薄膜ストローと陽極ワイヤを実装するためのストローの精密加工を、構造体製作と並行して進める。構造体の製作には3ヶ月を見込んでおり、H30年夏頃にはストロー及びワイヤの実装作業を開始する。 一方、実機が完成した暁には、これを安定動作させるためのコミッショニングが必要になる。実機完成後速やかにコミッショニングを開始するために、実機へのガス供給系、及び高電圧分配回路の製作を進める。ガス供給系に関しては、従来のガスサプライと圧力・流量制御システムに加えて、H29年度に開発した回路放熱・冷却機構を組み込む。この際、ガスを冷却する過程でガスの圧縮が必要になるが、圧縮ガスを検出器運転中常時放出することを避ける為、ガス系は閉鎖系とし、そのためにガスを循環させる機構も開発する。 以上の「実機構造体製作」「実機実装」「ガス系製作」「高電圧分配回路実装」の4件がH30年度の主な研究開発項目となる。H30年11月までに実機1号機を完成させ、年度内残りの時間で、1号機をコミッショニングし、安定動作を確立させることが、H30年度の目標となる。
|