申請者らが開発した液滴エピタキシー法による格子整合系量子ドットの自己成長は,基板と量子ドットの格子定数が等しいので,内部応力によるピエゾ電場が生じないという極めてすぐれた特徴をもつ。また,構造歪みを伴わないことから,高い空間対称性をもつ量子ドットの作製が可能である。窒素ペア等電子トラップに捕捉された励起子では,試料構造の均一性を反映して50μeV以下の極めて小さな不均一幅が実現できる。本研究では,液滴エピタキシー法による高対称GaAs量子ドットとδドープで作製する窒素ペア等電子トラップについて,高効率・高忠実な単一光子発生と量子もつれ合い光子対発生の実現を第1の目的とする。また,新しい材料系の開発による非古典光発生の波長領域の拡大を第2の目的とする。 2019年度は,①パーセル効果を利用した発光促進による,電子系の位相緩和と無輻射遷移の相対的な低減,②精密な光子相関測定による特性解析,③新しい材料系の開発による非古典光発生の波長領域の拡大などを目標として研究を進め,以下の成果を得た。 ①エアブリッジ型GaAsフォトニック結晶スラブに形成したL3型光共振器を用いて,窒素ペア等電子トラップからの発光について蛍光スペクトル測定と光子相関測定を行ない,パーセル効果による発光促進を実証した。②液滴エピタキシー法でInP(111)A基板上にInAs量子ドットを作製し,バリア層にInAlGaAsを採用することで,通信波長帯(1.55μm)の単一光子発生を達成した。これらに加えて,③作製が比較的簡便な非エアブリッジ型フォトニック結晶スラブについて,トポロジカルに保護されたカイラル光導波路の数値解析を行い,偏光が量子もつれした光子対を光導波路で空間分離する手法を見出した。
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