研究課題/領域番号 |
16H02204
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
ロス ダニエル 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, チームリーダー (00524000)
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研究分担者 |
STANO PETER 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 上級研究員 (10722746)
樽茶 清悟 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, グループディレクター (40302799)
ディーコン ラッセル 国立研究開発法人理化学研究所, 石橋極微デバイス工学研究室, 研究員 (40552443)
鎌田 大 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (70755545)
松尾 貞茂 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (90743980)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 半導体物性 / 物性実験 / 物性理論 / マヨラナ粒子 / 超伝導 / 電子対分離 / スピン軌道相互作用 |
研究実績の概要 |
(1)h-BN薄膜をゲート絶縁層として用いることにより、高品質なInAs量子細線試料を作製した。量子細線に対して常伝導体を接合した試料では、明瞭な量子化伝導度を観測することに成功し、超伝導体NbTiを接合したジョセフソン接合では、高周波測定によって交流ジョセフソン効果による基本周波数ジョセフソン雑音の検出に成功した。また、並列2重量子細線において、超伝導体Alから別々の量子細線へのクーパー対分離現象の観測に成功した。 (2)高品質InAs量子井戸と超伝導体との接合系を作製し、スピン分離した量子ホールバルク状態が支配的な領域において超伝導ギャップ内での伝導度の増強を観測した。 (3)交流ジョセフソン効果検出のための高周波測定系(周波数帯域1~20 GHz、磁場 < 2 T)を確立した。この測定系を用いて、HgTeトポロジカル絶縁体ジョセフソン接合試料では、トポロジカル相による超伝導位相の4π周期性の観測に成功した。また、従来の手法に比べて安定的にHgTe量子井戸をSi基板上に転写する技術を確立し、オンチップ雑音検出器などの複雑な試料の作製が可能となった。 (4)量子ドットを用いて核スピンによる効果を取り除いてスピン軌道相互作用を評価する手法を理論的に提唱した。また、トポロジカル相を実現する系として、分数電荷を実現する量子ドット列、マヨラナ粒子束縛状態を実現するスカーミオン/超伝導体結合素子、パラフェルミオンを実現する電気的に駆動された結合細線系を理論的に提唱した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
量子細線試料およびトポロジカル絶縁体試料において、マヨラナ粒子検出のための各試料作製技術・測定技術が確立され、それらを集約することにより、従来の測定手法と比べてより確実なマヨラナ粒子の実証が得られると期待される。また、並列2重量子細線におけるクーパー対分離は、無磁場でのマヨラナ粒子対の生成、およびパラフェルミオンの生成に必要不可欠な現象であり、最終目的であるこれらのトポロジカル粒子実証のための重要な成果である。 スピン分離した量子ホールバルク状態における伝導度の増強効果は、アンドレーエフ反射に起因するものであるが、これはスピン3重項超伝導近接効果の兆候とみなせる。この結果は、スピン分離した量子ホールにも超伝導を注入可能であることを意味しており、重要な結果である。 スピン軌道相互作用を定量的に評価する手法を理論的に確立し、更なる実験によって本手法の有用性が実証されると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
(1)半導体自己形成量子細線試料では、スピン軌道相互作用がより強いInSb量子細線において、InAs量子細線試料と同等に高品質な試料を実現し、マヨラナ粒子の観測を目指す。また、InAs量子細線に超伝導体NbTiを接合した試料においてクーパー対分離信号の検出を行い、その磁場依存性を調べることにより、分離した2つの電子スピンの相関関係を明らかにする。 (2)半導体量子井戸試料では、これまでに微細加工技術を確立した、エピタキシャル成長された超伝導体/半導体ヘテロ構造の量子井戸試料から量子細線試料を作製し、マヨラナ粒子の観測を目指す。また、高移動度InAs量子井戸基板から並列2重量子細線構造を持つ試料を作製し、そこでのクーパー対分離信号の検出を試みる。 (3)HgTeトポロジカル絶縁体試料では、より広帯域での測定が可能なオンチップ雑音検出器を用いて、HgTe量子スピンホール絶縁体ジョセフソン接合におけるアンドレーエフ束縛状態の観測を目指す。さらに、この試料の測定で確立した高周波測定手法をInSb量子細線またはInSb薄膜ジョセフソン接合試料に拡張し、マヨラナ粒子による超伝導位相の4π周期性の観測を目指す。 (4)理論的研究では、トポロジカル物質の安定性の評価を目標に研究を遂行する。まず、トポロジカル絶縁体のヘリカルバンドに対して核スピンが及ぼす効果を解析する。次に、電子間相互作用および非局所雑音によるマヨラナ粒子に対するディフェージングを評価する。トポロジカル相の安定性とロバスト性に対する現実的な評価は適切な実験系を選ぶ上で重要である。
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