流体における層流・乱流転移は、世紀を超えて科学者が挑戦し続けている難問の一つである。20世紀終わりのカオスの発見は、閉鎖流の時間的乱れの発生機構を明らかにしたが、パイプ流などのシア流における時空間的乱れの発生は、19世紀のレイノルズ以来、未解決である。これに対して我々は、統計力学的な視点を導入し、粗視化により局在した乱流構造を1つの乱れた要素と見なし、その乱れが時空間全体に広がる(乱流への遷移)かそれとも消滅(層流状態への回帰)してしまうのか、大域的で統計的な振る舞いに着目することで、層流・乱流転移が吸収状態相転移の一種である有向パーコレーション(Directed Percolation)と見なせることを提案した。 実際に、これまでに、シア流における層流・乱流転移は有向性パーコレ ーション(DP)であるとの仮説に基づき、世界最大のチャネル乱流実験装置を製作し、DP転移における3つの独立な臨界指数の測定に成功した。また、液晶の乱流系においても、移流がある場合のDP転移の実験を行ってきた。最終年度は、移流のある実験系でどのようにして信頼できるDPの臨界指数を測ることができるかと言う点に関して、流路の入口にグリッドを導入し、敢えて 乱流を注入することで、Active Wall(活性壁)と呼ばれる境界条件を課すことで定常状態 を実現し、(2+1)次元DPの臨界指数が測定可能であることを現象論とシミュレーションによよって明らかにした。これらのこれまで得られた知見をまとめた論文と総説を発表した。また、移流のある液晶乱流系については、我々の予想したDPの振舞いと臨界指数が得られており、現在、発表準備中である。
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