研究課題/領域番号 |
16H02217
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
笹井 理生 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (30178628)
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研究分担者 |
新井 宗仁 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (90302801)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 動的ランドスケープ / 粗視化動力学モデル / マルチスケールNMR測定 / 網羅的変異解析 |
研究実績の概要 |
新しい粗視化動力学モデルとしてカメレオンモデルの開発を進め、とくにNtrC、およびアデニル酸キナーゼに適用して、実験と整合性のある転移経路が計算を可能とするために必要な条件を解析した。とりわけ、ドメイン間の相互作用における水和効果を粗視化モデルでうまく表現することの必要性が明らかにされ、ポテンシャルの改良を行った。また、ミオシンVIの分子モーターとしての運動を解析するための粗視化動力学モデルの計算を行い、動的エネルギーランドスケープの方法論を発展させた。 実験と理論の共通の対象として、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の解析を行った。実験では、大腸菌を用いて15N標識されたタンパク質を大量発現し、NMRスペクトルを測定した。その結果、ピークの分離も良くシグナル強度も高いスペクトルが得られる条件を見出すことができた。さらに、ラン藻由来のアルカン合成酵素(アルデヒド脱ホルミル化オキシゲナーゼ、ADO)についてNMRスペクトルをを解析した。ADOは、鉄原子を2個結合するためシグナル強度が低かったが、クライオプローブ付きの高磁場NMR装置を用いて測定することで改善された。また、ADOタンパク質は多形構造を有することが示唆された。 以上の研究と並行して、構造揺らぎを設計して機能を制御する新しいタンパク質工学技術の開拓を目指した研究も開始した。とりわけ、ラン藻由来のアルカン合成関連酵素(アシルACP還元酵素、AAR)のアミノ酸配列を変えると、酵素活性と基質特異性の両方を制御可能であることを見出し、酵素AARの構造揺らぎを制御するアミノ酸部位の探索に成功した。さらに、AARとADOについての網羅的変異解析や、両者の相互作用解析なども行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カメレオンモデルの開発はおおむね順調である。NtrCの動的エネルギーランドスケープ解析が進んでいるほか、アデニル酸キナーゼの動的エネルギーランドスケープ解析のための必要条件が明瞭にされてきた。また、ミオシン分子モーターの動作解析に動的エネルギーランドスケープの方法を応用する新しい道筋を明らかにした。
DHFRのNMR測定はおおむね順調である。ADOについては現在、単一構造をとる溶媒条件を検討中である。また、構造揺らぎを設計して機能を制御する新しいタンパク質工学技術の開拓を目指した研究も開始している。
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今後の研究の推進方策 |
カメレオンモデルについて開発を進め、複数のタンパク質の構造転移を統一的に説明する方法として整備する。動的エネルギーランドスケープの方法がとくに有効と思われるミオシン分子モーターについても解析を進める。
DHFRについては、カメレオンモデルによる理論計算とマルチスケールNMR法を用いた実験測定を進め、動的ランドスケープの解析を行う。同時に、反応の熱力学的・速度論的測定を行い、NMR法による測定と総合して、触媒反応が動的ランドスケープにより制御される機構を解析する。一方、ADOについては、NMR測定を容易にするために、単一構造をとる溶媒条件を検討する。理論と実験の協力により、新しいタンパク質工学技術の開拓を目指した研究を推進する。
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