研究実績の概要 |
新しい粗視化モデルであるカメレオンモデルの開発整備を進め, NtrC, アデニレートキナーゼなどの構造変化ダイナミクスの分析を行った。また, ミオシンVIとアクチン線維の相互作用を表す動的エネルギーランドスケープを計算し, ミオシンVIがアクチン線維を通常のミオシンとは逆向きに運動する機構について, 新しい仮説を提案するための基礎となる結果を得た。さらに, タンパク質相互作用とATP加水分解反応によって振動する生化学反応系の振動機構を理論的に分析した。
アルカン合成酵素(アルデヒド脱ホルミル化オキシゲナーゼ, AADO)の動的ランドスケープを特徴付けるために, ADO単独と, ADOに基質アナログを添加した場合の2つについてマルチスケールNMR測定実験と分子動力学法による理論計算を行った。マルチスケールNMR法により, ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の高活性型DHFR変異体の動的ランドスケープの特徴付けを行った。特に, 触媒反応サイクルにおける律速段階である生成物解離反応をR2緩和分散NMR法で測定した。
構造揺らぎを設計して機能を制御する新しいタンパク質工学技術の開拓を目指した研究を行った。とりわけ, ラン藻由来のアルカン合成関連酵素(アシルACP還元酵素、AAR)の酵素活性を向上させた変異体の構築に成功した。また, 動的エネルギーランドスケープを理論的に描くことのできるWSMEモデルをジスルフィド結合含有タンパク質に拡張する方法の開発を進めた。さらに, 様々なタンパク質の構造ダイナミクスの測定も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
粗視化モデルにより動的エネルギーランドスケープの描写を行う方法整備を進展させている。DHFRとADOのマルチスケールNMR実験はおおむね順調である。また, ADOについては分子動力学シミュレーションも行った。アクトミオシン系についての粗視化動力学計算により, 分子モーターの新しい動作機構の解明が進展している。さらに, 構造揺らぎの制御を目指した研究や, 動的エネルギーランドスケープを描くための理論モデルの拡張も行った。
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今後の研究の推進方策 |
新しい粗視化動力学モデルであるカメレオンモデルの開発整備を続け, 反応, 運動と構造変化の相関について分析する新しい方法を構築する。分子モーターの運動機構を動的エネルギーランドスケープによって解明する新しい方法を展開する。マルチスケールNMR法によるDHFRとADOの動的ランドスケープの解析を完了させ, その結果を、カメレオンモデルや分子動力学シミュレーションなどによる理論計算の結果と比較検討する。 DHFRとADOを高活性化しうるアミノ酸配列変異を理論的に探索後, 実際に変異体を作成して理論を検証する。理論と実験の協力により, 新しいタンパク質工学技術の開拓を目指した研究を推進する。
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