研究課題
新しい表面標高モデルを氷床モデルに導入し、サブグリッドスケールで氷流出を計算するためのパラメータ化を行った。このモデルを用いて、氷期間氷期サイクルに渡るスピンアップ実験を実施した。また将来100年に渡って、(1)気候を一定とした基準実験、(2)極端に温暖化した条件下での質量収支を単純化して与えた実験、を実施した。その結果、初期化条件の違いが大きく異なる結果を導くことが明らかとなった(Greve et al., 2017)。この成果は氷床モデル比較プロジェクトISMIP6のサブプロジェクトInitMIP-Greenlandに提出済みで、プロジェクトによる論文化が進んでいる。ISMIP6コミュニティーにおいては、その実験条件の検討に貢献した(Nowicki et al. 2016)。この検討は気候モデル比較プロジェクトCMIP6に基づいており、CMIPでは初めて氷床・気候結合モデルおよび氷床単独モデルを含むものである。最終的に整えられたCMIP6の実験条件は、気候モデルの出力値、その他多様な将来気候シナリオデータに基づいて、氷床単独モデルで実施されるものである。ArCS 北極域研究推進プロジェクトと連携して、グリーンランド北西部カナック地域において氷床流動・変動を解析した。その結果、この地域の広い範囲において、表面融解と動力学的プロセスに駆動された氷質量損失が示された(Tsutaki et al. 2016)。研究対象のひとつとなった海洋性カービング氷河であるボードイン氷河では、潮汐と降水イベントに起因した流動変化が明らかになった。
3: やや遅れている
当初2016年10月に氷床モデリングに実績を持つ博士研究員を雇用する予定であった。しかしながらその条件を満たす海外からの候補者は、家族的な理由が原因で採用することができなかった。そこでこの候補者を、2017年1~3月の二か月に限って招聘することとした。その結果、浅層・氷流・棚氷の流動をハイブリッド形式で含む氷流動力学の導入に遅れが生じた。実際には、グリーンランド氷床の数値実験を浅層近似モデルで実施するにとどまった。実質的にはハイブリッドモデルの数値解法は開発済みであるが(Bernales et al. 2017)、未だに数値的な問題が残っており、完成までには更なる作業が必要である。
今後は、グリーンランド氷床モデルのスピンアップ実験を実施する。この実験は、現在の観測値と氷コアによって得られた過去の変動に基づいて、表面気温と降水量分布を氷床全域に推定して行うものである。氷流動力学と底面水文状態をモデルに導入することで、より現実的な実験を実施する。北東グリーンランド氷流(NEGIS)の源頭域で実施されている新しい深層掘削プロジェクト(EGRIP)を支援するため、上記のスピンアップ実験を掘削地点周辺の氷床流動解析に利用する。この試みは既に前年から実施しているが、NEGIS周辺の流動状態を再現するには至らなかった。氷流動力学と底面水文状態の導入によって、改善された結果が得られると考えている。グリーンランドで掘削されたNEEM氷コアは、氷の粘性が各年代によって変動を示し、未だその理由が判明していない。すなわち、酸素同位体によって堆積当時低温であったと推定される氷が、より流動し易い物性を示す現象である。そこで我々はこれらの氷コアデータを用いて、酸素同位体と氷流動促進係数との関係を解析する。明らかになった関係性を流動モデルに取り入れることによって、グリーンランド氷床変動数値実験の精度が向上するものである。1850年から現在、さらに将来にわたる気候シナリオの設定に取り組む。このシナリオは、大気海洋結合気候モデル(MIROC AOGCMおよびその他のモデル)の出力値に基づいたもので、グリーンランド氷床のその周辺に至る大気と海洋の条件を記述するものである。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 オープンアクセス 4件、 査読あり 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
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http://wwwice.lowtem.hokudai.ac.jp/~greve/
http://wwwice.lowtem.hokudai.ac.jp/~greve/progris/