研究課題
金星大気中の短周期擾乱と長周期擾乱(主に熱潮汐波)の解析を進めた結果,雲層高度に顕著な夜昼間対流が存在することがわかった。また,惑星規模の南北対称性を示す短周期擾乱を見出した。これは最近の地上及び探査機観測ともよく一致する結果であり,その成因などを今後詳しく解析する。全球高解像度計算の結果から,運動エネルギーの波長依存性(スペクトル)を回転成分・発散成分に分けて求め,その鉛直分布を議論した。地球大気の運動エネルギースペクトルの鉛直分布との類推から,大気重力波が高度60 km付近で生成され,上下に伝播していることが示唆された。また,金星探査機あかつきの IR2 カメラが捉えた惑星規模ストリーク構造がモデル中に再現されていることを見出した。あかつきデータを利用したデータ同化システムの構築を進め,Venus Expressデータを使った予備実験を行う段階まで作業が進捗した。あかつきIR1カメラにより,2015年12月-2016年12月に0.9 um昼面画像および0.90-1.01 um夜面画像を得た。昼面では下層雲域風場,夜面では水蒸気量・表面輝度分布の情報を導出可能であり,今後解析を進める予定である。あかつき搭載中間赤外カメラのデータ処理パイプラインを構築した。また金星画像を緯度経度の地図座標に展開するシステムの確立により,金星大気の雲層高度に地理座標に固定された巨大な重力波構造が存在することを初めて明らかにした。ハワイ・マウナケアにあるサブミリ波望遠鏡JCMTおよびチリのALMA望遠鏡を用いて,あかつきの観測と連携させた地上観測を実施した。これら地上観測は金星上層大気の気温風速場および雲層における温度分布の観測を目的としており,初期解析の結果,金星上層大気における昼夜間循環の様子や,雲層における温度場の非一様性が得られている。今後解析を進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
数値モデリンググループでは,平成28年度は雲物理モデルの構築とGCMへの組み込みを進める予定であったが,作業に若干の遅れがでている。しかしながら,GCMデータの解析では最近の観測とよく対応する短周期擾乱や惑星規模の大気構造を見出したほか,あかつき観測データを用いたデータ同化のシステムの構築が順調に進捗し,Venus Expressの観測データから得られた風速を利用してデータ同化のテストを実施することができた。一方,観測・データ解析グループはあかつきおよび地上観測を順調に実施し,金星雲頂温度のデータから世界初の巨大重力波構造を発見することができた。また世界各地の各種望遠鏡を組織した観測計画も順調に推移し,ハワイおよびチリの望遠鏡とあかつきの観測を連携させた観測キャンペーンを実施した。以上を総合的に判断し,おおむね順調に進展していると評価した。
数値モデリンググループでは,遅れている雲物理モデルの開発およびGCMへの組み込みを行う予定である。最新の観測結果を参照しながら数値実験を行い,雲層付近の大気波動と励起メカニズムの研究を進める。また,極域大気の時間変動とその力学をあかつきの電波掩蔽データと比較しながら研究する予定である。観測・データ解析グループは,平成29年度も予定通り,あかつきプロジェクトや海外の地上観測グループと連携して,多波長観測を継続する。これまでに得られた観測データの解析を進め,大気波動の三次元構造と運動量・熱の輸送を観測的に明らかにしたい。また,GCMのシミュレーション結果との比較を進めることにより,大気波動の力学的性質や励起メカニズムなども調べる予定である。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 5件、 査読あり 7件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
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