研究課題
惑星周辺の宇宙環境(電磁気圏環境)は、その惑星の持つ固有磁場の強さによって大きく異なる。しかし、現在の知見では、固有磁場強度が変化したときに、電磁気圏環境や大気流出量がどのように変化するのかを予測できる段階には達していない。地球型惑星からの大気流出の理解に不可欠な惑星電磁気圏環境の基本的な性質には、物質輸送とダイナミクス、環電流およびプラズマ圏の形成、大気流出機構の3つがある。本研究の目的は、この3つの基本的性質に焦点をしぼり、地球と火星の比較に基づいて、地球型惑星の電磁気圏環境に固有磁場強度が与える影響を解明することにある。研究計画第2年度である平成29年度には、観測との比較による数値モデルの改良を勧めるため、火星探査機MAVENの観測データを中心に、データ解析研究を推進した。特に残留磁化の多い南半球と残留磁化が少ない北半球に着目し、火星からの流出イオンの分布や誘導磁気圏界面の位置に南北非対称があること、太陽風電場の向きと惑星の残留磁化の位置の組み合わせによって、特に密度の高いイオン流出が見られることなどが明らかとなった。また、地球に関しては、過去20年近く蓄積されているEISCATレーダーデータの解析を進め、太陽風変動による地球におけるイオンアップフローの出現条件を統計的に調べるなどの研究を推進した。また、数値シミュレーションに関しては、平均的な太陽風条件下で、火星周辺電磁気圏環境の多成分グローバルMHDシミュレーションを実行し、固有磁場がない場合とある場合のシミュレーション結果を詳しく比較した。その結果、固有磁場がない場合の大気散逸が、火星探査機MAVENの観測結果と矛盾しないことを確かめるとともに、弱い双極子型の固有磁場(惑星表面赤道で100nT)を持つ場合には、大気流出に磁気再結合機構が重要な役割を果たすこと、及び大気散逸率がむしろ増加することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本計画で第二年度に予定していた、MAVEN火星探査機のデータ解析、ジオスペース探査衛星あらせとEISCATの同時観測、統計データ解析研究の実施、観測との比較に基づく現在の火星からの大気散逸シミュレーションと、火星が固有磁場を持つ場合のシミュレーションの開始などを行い、ほぼ当初の計画通り進んでいるため、「おおむね順調に進展している」を選択した。
本研究では、現在の地球と火星における最新の観測と数値実験結果を比較することで物理機構の理解を深め、観測を定性的に記述可能な数値モデルを開発する。次に開発したモデルを用いて固有磁場強度を変えた場合の数値実験を行い、固有磁場強度が惑星電磁気圏環境の基本的性質に与える影響を明らかにすることを目指している。計画第二年度までの研究により、現在の太陽条件下での火星の多成分MHDグローバルシミュレーションを固有磁場がない場合とある場合に対して実行し、固有磁場がない場合の大気散逸が、火星探査機MAVENの観測結果と矛盾しないことを確かめるとともに、弱い双極子型の固有磁場(惑星表面赤道で100nT)を持つ場合には、大気流出に磁気再結合機構が重要な役割を果たすこと、および、大気散逸率が減少せず、むしろ増加する傾向を持つことを明らかにした。研究計画3年次の本年度は、更に固有磁場強度を強くした場合に、惑星周辺の宇宙環境や大気流出率がどのように変化するかを調べるとともに、過去の太陽条件下でのシミュレーションも行い、太陽風や太陽放射への依存性を調べる計画である。また計画第二年度には、地球における大気流出機構を理解するため、EISCATレーダーとERG衛星のコンジャンクション観測を実施した。今後は、この同時観測結果の解析をさらに進め、特に低高度から流出すると考えられている分子イオンに着目して、低高度電離圏からの早い大気流出機構の起こる条件を明らかにしたい。また、これと平行して、昨年度に引き続きEISCATデータの統計解析を進め、イオンアップフロー現象の太陽風条件依存性を調べた結果を論文としてまとめる計画である。また、固有磁場を持つ惑星の特徴である、環電流、プラズマ圏の地球パラメータ下での数値モデリングおよびあらせ等の観測データとの比較を行い、環電流形成の必要条件についての研究を進める。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 7件、 査読あり 9件) 学会発表 (24件) (うち国際学会 13件、 招待講演 3件)
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