研究課題/領域番号 |
16H02231
|
研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
中村 正人 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 教授 (20227937)
|
研究分担者 |
高木 征弘 京都産業大学, 理学部, 准教授 (00323494)
前澤 裕之 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00377780)
はしもと じょーじ 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (10372658)
中川 広務 東北大学, 理学研究科, 助教 (30463772)
今村 剛 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (40311170)
佐川 英夫 京都産業大学, 理学部, 准教授 (40526034)
堀之内 武 北海道大学, 地球環境科学研究院, 准教授 (50314266)
田口 真 立教大学, 理学部, 教授 (70236404)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 地上望遠鏡 / 金星探査機 / 物質循環 / モデリング |
研究実績の概要 |
本研究では、金星の雲がどのような物質循環によって維持されているかを、探査機と地上望遠鏡による相補的な観測によって解明する。具体的には(1) 金星探査機によるデータを解析して雲層高度の3次元大気循環と組成変動を明らかにし(2) 地上からの電波と赤外線による観測によって上層大気の化学組成と大気循環の情報を得る。(3) 両者の情報を組み合わせて物質輸送と雲形成のモデリングを行い、(4) 3次元大気循環が雲量と大気組成、金星の気候形成にどう関わるのかを明らかにする。 初年度は、金星探査機「あかつき」のデータを解析して風速や雲量や微量気体の分布の変動の解明に取り組んだ。自動雲追跡手法を発展させ,緩和法による誤り訂正・除去手法を改良し、これまでより高い解像度で風速分布を得ることに成功したほか、雲層の下部にジェット状の気流構造が存在する時期があることを発見した。中間赤外カメラが雲頂に捉えた巨大な弓状温度構造についても解析し、定在波であり金星高地に接する下層大気で生じた重力波が雲層上端高度まで伝播したものであることを明らかにした。加えて、「あかつき」の電波掩蔽観測データを解析し、気温や硫酸蒸気の分布を取得した。 地上望遠鏡による観測は上述の弓状構造に対してALMAと「あかつき」の同時観測を実施した。ハワイのサブミリ波望遠鏡JCMTおよびチリのALMA望遠鏡を用いて,あかつきの観測と連携させた地上観測を実施した.このデータの初期解析結果からは、雲層上空のSO2に極めて大きな時間変動があることや,SO2とCOの空間分布に相関があることなどが示唆された。東北大学ハワイ・ハレアカラ観測施設望遠鏡に赤外レーザーヘテロダイン分光器を実装した。特に、冷凍機タイプの試作・ハワイでの試験観測を実施し、今後の連携観測の準備を進めた。SPART望遠鏡による金星大気中の一酸化炭素のモニタリングも継続して実施した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
金星探査機のデータを解析して風速や雲量や微量気体の分布の変動を解明した。自動雲追跡手法を発展させ,緩和法による誤り訂正・除去手法を原理的な考察にもとづいて改良したうえで取り込んだ 。紫外イメージャによる紫外画像を用いた雲追跡からは,今までより高い有効解像度で風速のスナップショットが得られた。また,IR2による2μm帯の夜面画像の追跡からは,雲層の下部に,これまで知られていなかったジェット状の気流構造が存在する時期があることを発見した。中間赤外カメラが雲頂に捉えた巨大な弓状温度構造についても解析し、報告例のない定在波構造であることがわかった。数値シミュレーションにより、金星高地に接する下層大気で生じた重力波が雲層上端高度まで伝播し、温度場に擾乱を与えることで弓状構造が形成されることを突き止めた。この弓状構造に対してALMA(Band 6&7)と「あかつき」の同時観測を実施した。加えて電波掩蔽観測データを解析し、低緯度を中心に雲層内の対流層の日変動の分析を進めた。硫酸蒸気の分布を得ることにも成功した。 金星雲層付近および雲層上空での微量成分の空間・時間変動分布を観測的に把握することを目的としてハワイのサブミリ波望遠鏡JCMT、チリのALMA望遠鏡を用いて,あかつきと同時地上観測を実施した.解析データの初期解析結果からは 雲層上空のSO2に大きな時間変動があることや,SO2とCOの空間分布に相関があることなどが示唆される.現在,光化学の視点から,これらの観測データの詳細な解析を進めている. また、東北大学ハレアカラ観測施設望遠鏡にリモート制御可能な赤外レーザーヘテロダイン分光器を実装した。ハワイでの試験観測を実施し、2017年のあかつき電波掩蔽・他地上観測との連携観測の準備を進めることができた。 SPART望遠鏡による金星大気中の一酸化炭素のモニタリングも継続して実施した。
|
今後の研究の推進方策 |
あかつきの多波長データを放射輸送計算を参照して解析し、雲量と主な雲粒サイズを求め、これらの時空間変動から、鉛直風に伴う凝結と蒸発の情報を得る。太陽直下点に現れるセル状構造や昼夜間の温度構造の相違を調べ、日変化サイクルに伴う鉛直輸送について調べる。電波掩蔽観測から、硫酸蒸気が飽和して雲として凝結している空間領域を特定し、雲の下での硫酸蒸気の輸送と分解の情報を得る。太陽散乱光の位相角依存性から、雲より上に分布する硫酸ヘイズの分布を求め硫酸の光化学生成とその後の輸送の情報を得る。紫外カメラのデータから雲頂付近のSO2分布を導出し、下層のSO2の雲頂までの輸送、消失過程を推定する。近赤外カメラのCO吸収帯データから、雲層の下のCO分布とその変動を求め、光化学生成物の下降過程を特定する。中間赤外カメラによる雲頂の熱放射データと近赤外カメラによるCO2吸収帯データを用いて、雲頂高度をマッピングし、低緯度で生成した雲の水平・鉛直輸送に関わる情報を得る。 金星-地球間距離が小さくなる2017年春~夏を中心に地上観測を継続的に行い、「あかつき」と相補的な上層大気の大気組成や循環場の情報を得る。「あかつき」とのシナジーを最大化するため、地上観測と同じタイミングで金星の地球側の面を重点的に観測するよう「あかつき」プロジェクトと調整する。 観測データに基づく物質循環モデリングの準備として、これまでに鉛直1次元の金星雲モデルで用いてきた雲物理スキームを、領域スケールおよび惑星スケールの数値流体モデルに導入する。相変化を伴う物質の移流を、質量保存を満たして計算する手法を確立する。 観測データをもとに精密化した雲物理化学と物質輸送の数値モデルをもとに、雲量や大気組成の非一様性と時間変化の特徴を再現する。非定常な擾乱を含む3次元物質循環が雲量やアルベドをどう支配するのかを明らかにする。
|