研究課題/領域番号 |
16H02235
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
狩野 彰宏 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (60231263)
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研究分担者 |
植村 立 琉球大学, 理学部, 准教授 (00580143)
堀 真子 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (00749963)
坂井 三郎 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 生物地球化学研究分野, 技術研究員 (90359175)
柏木 健司 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 准教授 (90422625)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 石筍 / トゥファ / 炭酸凝集同位体温度計 / 安定同位体 / 微量元素 / 古気候 |
研究実績の概要 |
本研究の目的はアジアモンスーン地域の西端に位置する日本列島で採集した陸成炭酸塩(石筍,トゥファ,トラバーチン)を用いて,高解像度かつ定量的な古気候情報を抽出することにある。 平成29年度は炭酸凝集同位体温度計の分析システムを変更する必要性があり,そのためデータ採集のために,研究費を次年度に繰越すことになった。しかし,これで雇用した特任研究員が中心となって行った予備実験により,装置システムの改善は成功し,炭酸凝集同位体の測定値から合成カルサイト試料の生成温度を復元することが可能になった。炭酸凝集同位体の分析は天然環境(石灰岩地帯の河川)で堆積したトゥファに対しても拡張され,合成カルサイトとは別の温度換算式が導き出された。これは環境水からの二酸化炭素脱ガスにより沈殿した試料に特有の式であり,石筍にも応用できるものと考えられる。この成果は学会で公表するとともに,Geochemica Cosmochimica et Acta誌に掲載された。 その一方で,石筍を用いた古気候研究も進展した,静岡県や埼玉県の試料については年代モデルをウラン-トリウム(U-Th)法によって確立しつつある。広島県と岐阜県の試料については炭酸凝集同位体温度計を用いて採集氷期以降の温度変化の傾向が得られた。具体的な成果として最も重要だったのは三重県の試料を用いた研究である。ここでは過去8万年の酸素同位体記録が気温変化のみでも説明しうることが明らかになった。この結果はQuaternary Science Reviews誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の見直しにより研究費を繰越したが,慎重な予備実験を重ねることにより当初の予定通り炭酸凝集同位体の測定システムを完成し,その成果を国際誌に掲載することができた。これは凝集同位体の存在度異常(Δ47)と絶対温度の換算式を国内の実験室から初めて提示したものである。本研究の柱である挑戦的な試みが成功したと言える。また,石筍を用いた古気候研究についても三重県霧穴の試料を用いた成果を国際誌に公表することができた。これは,近年の古気候学の重要な議論である中国石筍の酸素同位体比についての論争(夏季アジアモンスーン強度 vs. 水蒸気ソースの変化)に対しても影響する重要な成果であり,研究計画は順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
炭酸凝集同位体温度計の分析システムの完成により,ハード面での研究環境は整備された。今後はこれを最大限に活用すべく,日本各地で採集した石筍試料の測定を進めていく。また,坂井が開発した分光式質量分析装置を用い,17O異常の測定も進めていきたい。これは水蒸気ソースの識別を行う上で極めて有用であり,石筍への活用は世界で最初の試みである。
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