研究課題
平成29年度は,第三期紀中新世メッシニアン期において地中海西部で堆積した泥岩,およびトラパニ塩田(現代・シチリア島)の堆積物中について主に研究を行った。まずは,それらの地質学的試料からクロロフィル類およびそれらの分子化石であるポルフィリン類を抽出した後,初年度に改良した分析方法を応用し,個々の有機化合物を高速液体クロマトグラフィーを用いて単離・精製した後,微量安定同位体比測定装置を用いて炭素および窒素安定同位体比の精密分析を行った。メッシニアン期の堆積物の分析結果は,当時の海洋表層の生物生産を支える窒素をフィードするプロセスとして,窒素固定が基本的に重要であったことを明らかにした。おそらく塩分成層した海洋の表層に成層境界以深からもたらされる硝酸のフラックスが非常に限られていたことを反映しているものと考えられる。さらに,一時期+10パーミルを超える非常に高い窒素同位体比をもつことも発見した。この高い窒素同位体比の原因を知るために,メッシニアン期のモダン・アナログと考えられる塩田試料中のクロロフィルの窒素同位体比を分析した。それらの分析結果によると,塩田堆積物中で有機物の分解によって生まれたアンモニアが,拡散によって上方に移動し,それが現場の生産を主に支え,それが高い窒素同位体比を生み出すプロセスであることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
西赤道太平洋においてピストンコアによって得られた堆積物試料には,含まれているクロロフィルが非常に少なく,同位体比の測定に必要量が得られないことが明らかになった。そこで地中海の中新世の堆積物について応用を行った。堆積物によって分析しうるだけのクロロフィルやポルフィリンが確認できるかは,当初から想定されていたことである。本研究は,全体としてはおおむね順調に進捗していると言うことができる。
今後11億年前に堆積した堆積岩試料に応用する。これまでこのような研究に応用されたことがなく,もしポルフィリン類が見出されれば,構造決定とともに安定同位体比の測定を行う予定である。こういった研究がなされた堆積物としては最も古いものになる。平成30年度は最終年度であるので,これまで得られた結果をコンパイルし,窒素サイクルの時代変化についても論じたいと考えている。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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