本研究の目的は,宇宙空間において太陽風の直接照射を受けている固体微粒子表面直下の希ガス3次元分布を解析し,照射当時の太陽活動,すなわち,太陽風のエネルギー分布を決定することである.さらにこの分析を微粒子表面全体にわたり行い,天体上における微粒子の運動状態を特定することである.従来,このようなナノメーター空間分解能を持った希ガス分析は不可能であったが,申請者たちが開発した同位体ナノスコープが実現可能とした.人類は,現在,太陽風が直接照射された3種類の物質を宇宙から持ち帰っている.月,はやぶさ,Genesis試料である.これらは順に数十億年,数百~千年,現在の太陽風を記録しているので,太古代から現在に至る太陽活動の経時変化の情報が期待できる.また,試料表面に照射された太陽風の不均質性から月とイトカワとの天体サイズの違いによる小天体表面の粒子運動テクトニクスの理解が進むことが期待される.初年度は,Genesisターゲットの太陽風希ガスその場分析を重点的に行い,太陽活動と固体表面に打ち込まれた希ガス分布との対応,特に,フレア現象の記録の発見を目指した.そのため次の実験を行った.定常太陽風と太陽フレアを模擬したエネルギーを持つ希ガスイオンをGenesisターゲットにイオン注入することにより模擬試料を作成した.太陽フレア起源のHeをGenesisターゲットから検出した. 小天体表面のダイナミックスを解明するための分析をするために,現状の希ガス測定時間を短くする必要がある.この分析時間のボトルネックは大容量の飛行時間質量スペクトルのメモリーへの転送速度である.この転送速度を向上させるアルゴリズムを開発した.
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