研究課題/領域番号 |
16H02249
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松本 吉泰 京都大学, 理学研究科, 教授 (70181790)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 光触媒 / 顕微分光 / 過渡吸収分光 / 発光分光 / ラマン分光 / 和周波発生分光 |
研究実績の概要 |
本年度は、主に光触媒の集合体における電荷ダイナミックスや光触媒能をこれが置かれている水蒸気圧、すなわち光触媒粒子表面上の吸着水の膜厚の関数として測定することと、単一光触媒粒子毎の分光による電荷ダイナミックスの測定という二つの異なる方向から研究を行なった。具体的な研究内容を以下に記す。
(1) 顕微過渡吸収法により、バナジン酸ビスマス単一粒子における正孔減衰挙動を粒子サイズの関数として測定した。その結果、粒子サイズが大きくなるほど減衰寿命が増大し、また還元反応効率も増加することが判明した。キャリア減衰挙動をトラップ・ディトラップモデルにより解析を行ない、この原因を現在検討している。(2) アナターゼ型の結晶構造を持つが粒形が異なる3種類のチタニアナノ粒子(ST-01, DAP, OAP)の赤外過渡吸収を、水蒸気圧の関数として測定した。この結果、球状に近いST-01は(001)や(101)面でおおわれているDAPやOAPと異なり、水蒸気圧増加、すなわち、粒子表面への水吸着により正孔寿命が長くなることがわかった。現在、このような正孔寿命における水分子吸着効果と粒形との相関の原因について検討を行なっている。(3) 水蒸気下にあるチタニアナノ粒子の水分解光触媒能を検討した。試料に紫外光を照射したところ、水素が発生することは確認したが酸素は検出できなかった。水素発生量を水吸着量と比較したところ、第一層の吸着水のみならず多層吸着水も反応に関与しているという結果を得た。(4) 表面上に吸着した水の配向を含む構造は光触媒反応を考える上で重要である。そこで、和周波発生分光により、白金表面に吸着させた水分子の配向を明らかにした。その結果、水分子は水素原子を白金基板に向けて吸着していることが明らかになった。また、第1層の水配向により、第2層以上の水分子も一定の配向をすることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光触媒集合体における実験では、特徴的な粒形を持つ系に赤外過渡吸収分光を適用し、正孔補足能が水蒸気圧にどのように影響を受けるか、またその影響が粒形とどのように相関するかを確認することができた。これは、従来にない知見であり、この原因究明が今後の課題である。また、実際の水分解反応実験も行ない、水蒸気圧(吸着水膜厚)依存性を測定することに成功している。
一方、顕微過渡吸収分光においては単一粒子での測定に成功しており、光誘起電荷のダイナミックスを粒子の形状、凝縮度の違いにどのように依存するかを確認した。さらに、単一光触媒結晶における電荷寿命の分布を測定することにも成功しつつある。また、顕微ラマン分光もグラフェンやMoS2を対象として予備的な実験を行ないつつある。
これらの実験は触媒研究における重要な問題である圧力ギャップやマテリアルギャップを埋める上で重要な進展と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後、以下の点を中心に研究を推進させる。
(1) チタニアの正孔トラップ能における吸着水効果、および、その粒形依存性については理論家と共同してこの原因とメカニズムを解明する。(2) 顕微分光で得られた正孔寿命の粒径(凝縮度)依存性については、トラップ・ディトラップモデ ルによる解析をさらに進めてこの原因を解明する。(3) 会合していない単一結晶粒子において、局所励起・局所プローブにより、 光誘起正孔の拡散の様子を実空間で観測する。(4) 可視光応答還元型光触媒との組合せによるZスキームを構成し、この複合粒子における正孔減衰挙動への影響を明らかにする。(5) 顕微分光用の薄型電気化学セルを構築し、過渡吸収量などの印加電圧依存性を測定できるようにする。
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