• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2016 年度 実績報告書

構造揺らぎ・構造変化に基づく生体分子の機能発現の理論的解明

研究課題

研究課題/領域番号 16H02254
研究機関分子科学研究所

研究代表者

斉藤 真司  分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 教授 (70262847)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2021-03-31
キーワード時計タンパク質 / 概日リズム / イオンチャネル / イオン透過 / 構造変化 / 分子シミュレーション / 数理モデル / 水
研究実績の概要

本課題では、時計タンパク質KaiCの概日リズムの分子機構、ポリセオナミドB(pTB)の膜内挿入・膜内構造の解析を行った。また、生体分子の反応・機能の発現に重要な影響を及ぼす水の解析も行った。
時計タンパク質KaiCの概日リズムの分子機構に関しては、微視的レベルおよび疎視的レベルの両面から解析を進めた。微視的レベルでの解析として、KaiCのATPの加水分解反応がなぜ遅いかを明らかにするため、キネシンにおけるATPの加水分解反応と比較し、QM/MM計算による解析を進めている。疎視的レベルでの解析に関しては数理モデルの開発を進めた。今回のモデルでは、最近の実験データに基づき、KaiCのC1、C2ドメインの加水分解、さらにKaiCとKaiAおよびKaiBとの相互作用を考慮した。今回のモデルでは少数のパラメータしか用いていないが、リン酸化状態の振動を比較的精度よく再現するだけでなく、フィッティングに用いていない複数の実験結果の時系列についても半定量的に再現している。このように、本解析によりKaiCの概日リズムの発現機構に対する一提案を行った。
ポリセオナミドB(pTB)の膜内挿入・膜内構造の解析に関しては、まず、非天然アミノ酸の力場を開発した。開発した力場を用いた分子シミュレーションにより得られた構造とNMRの構造を比較し、今回開発したパラメータが実験結果を定量的に再現していることを確認し、構造揺らぎやチャネル内の水などの解析を行った。また、pTBの脂質二重膜への自発的挿入について自由エネルギー計算および分子動力学シミュレーションを用いて解析を行った。
水の解析に関しては、水の熱力学的異常性に強く関わっていると考えられている幅広い温度領域の過冷却水について、分子シミュレーションに基づく系統的な構造・動力学の解析を行い、新しい動的転移の発見、水のガラス転移温度の低い理由を解明した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本課題において、時計タンパク質KaiCの概日リズムの分子機構およびポリセオナミドB(pTB)の膜内挿入・膜内構造の解析の解析を進めている。
時計タンパク質KaiCの概日リズムの分子機構に関して、微視的レベルおよび疎視的レベルの解析を行た。微視的レベルの解析として、KaiCのC1ドメインにあるATPの加水分解の解析を進めた。また、疎視的レベルの解析において、KaiCタンパク質の概日リズムの数理モデルの開発および概日リズムの発生機構の提案に成功した。現在、概日リズムの数理モデルに関する論文を執筆中である。
ポリセオナミドB(pTB)の膜内挿入・膜内構造の解析に関しては、非天然アミノ酸の力場の開発するとともに、その力場を用いた分子シミュレーションにより得られた構造が実験結果を定量的に再現していることを確認した。さらに、構造揺らぎやチャネル内の水などの解析を行い、論文作成を進めている。以上の研究に加え、pTBの脂質二重膜への自発的挿入に関する解析も既に行っている。
以上の解析に加え、生体分子の反応・機能の発現に重要な影響を及ぼす水の異常性の起源に関わる過冷却水の系統的な解析も行った。この解析により、これまで知られていなかった新しい動的転移を発見した。また、一般的なガラス形成物質で知られているガラス転移温度(Tg)と融点(Tm)との比の関係(Tg/Tm=2/3)が水では成り立たないことが知られている(水では、Tg/Tm=1/2)。今回の広範な温度領域の系統的なシミュレーションにより、Tg/Tmに見られる水の異常性への解釈を与えることができた。

以上の理由から、おおむね順調に進展していると判断した。

今後の研究の推進方策

平成29年度も、時計タンパク質KaiCの概日リズムの分子機構およびポリセオナミドB(pTB)の膜内挿入・膜内構造の解析を進める。
時計タンパク質KaiCの概日リズムの分子機構に関して、平成29年度はとくに微視的レベルでの解析、すなわち、KaiCのC1ドメインにあるATPの加水分解の解析を進展させていきたい。また、Kaiタンパク系の概日リズムでは温度補償性が実験的に知られている。そこで、複数の温度での分子シミュレーションに基づきKaiCの構造揺らぎが温度によりどのように変化するかについても解析を行う。また、KaiCの加水分解能により概日リズムの周期が変化することも知られている。そこで、平成28年度に開発したkaiタンパク系の概日リズムの数理モデルにおいて、温度依存性やKaiCのATP加水分解が変わることにより、概日リズムのどの過程が大きな影響を受けるのかに関する理論解析を行う。
ポリセオナミドB(pTB)の膜内挿入・膜内構造の解析に関しては、pTBの膜への自発的挿入の詳細を解析する。さらに、膜に挿入されたpTBの安定構造を決定するとともに、電場印加によるpTBへのイオンの接近、イオンの透過機構に関する分子シミュレーションを開始する。

  • 研究成果

    (14件)

すべて 2017 2016 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 4件、 招待講演 8件) 備考 (2件)

  • [国際共同研究] Indian Institute of Science(インド)

    • 国名
      インド
    • 外国機関名
      Indian Institute of Science
  • [雑誌論文] Vibrational frequency fluctuations of ionic vibrational probe in water: Theoretical study with molecular dynamics simulation2017

    • 著者名/発表者名
      M. Okuda, M. Higashi, K. Ohta, S. Saito, K. Tominaga
    • 雑誌名

      Chem. Phys. Lett.

      巻: 683 ページ: 547-552

    • DOI

      10.1016/j.cplett.2017.03.008

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Quantitative Evaluation of Site Energies and Their Fluctuations of Pigments in the Fenna-Matthews-Olson Complex with an Efficient Method for Generating a Potential Energy Surface2016

    • 著者名/発表者名
      M. Higashi and S. Saito
    • 雑誌名

      J. Chem. Theor. Comput.

      巻: 12 ページ: 4128-4137

    • DOI

      10.1021/acs.jctc.6b00516

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [雑誌論文] Molecular Mechanism Behind the Fast Folding/Unfolding Transitions of Villin Headpiece Subdomain: Hierarchy and Heterogeneity2016

    • 著者名/発表者名
      T. Mori and S. Saito
    • 雑誌名

      J. Phys. Chem. B

      巻: 120 ページ: 11683-11691

    • DOI

      10.1021/acs.jpcb.6b08066

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [学会発表] Structure and dynamics of supercooled water2016

    • 著者名/発表者名
      S. Saito
    • 学会等名
      Indo-Japan bilateral seminar
    • 発表場所
      Kanpur, India
    • 年月日
      2016-11-13 – 2016-11-16
    • 招待講演
  • [学会発表] 過冷却水の構造と動力学2016

    • 著者名/発表者名
      斉藤真司
    • 学会等名
      Cryopreservation Conference 2016
    • 発表場所
      岡崎カンファレンスセンター、岡崎市、愛知県
    • 年月日
      2016-11-10 – 2016-11-11
    • 招待講演
  • [学会発表] 揺らぎから物性・機能機構の解明へ2016

    • 著者名/発表者名
      斉藤真司
    • 学会等名
      第3回電子状態シンポジウム
    • 発表場所
      早稲田大学、新宿区、東京都
    • 年月日
      2016-11-05 – 2016-11-05
    • 招待講演
  • [学会発表] Structure and dynamics of supercooled water2016

    • 著者名/発表者名
      S. Saito
    • 学会等名
      4th International Conference on Molecular Simulation
    • 発表場所
      Shanghai, China
    • 年月日
      2016-10-23 – 2016-10-26
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Structure and dynamics of supercooled water2016

    • 著者名/発表者名
      S. Saito
    • 学会等名
      2016 annual meeting EMLG-JMLG
    • 発表場所
      Chania, Crete, Greece
    • 年月日
      2016-09-11 – 2016-09-16
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 水の構造とダイナミクス:特異的性質の起源2016

    • 著者名/発表者名
      斉藤真司
    • 学会等名
      琉球大学 化学系講演会
    • 発表場所
      琉球大学、中頭郡西原町、沖縄県
    • 年月日
      2016-07-19 – 2016-07-19
    • 招待講演
  • [学会発表] Dynamics of water and proteins2016

    • 著者名/発表者名
      S. Saito
    • 学会等名
      8th International Kasetsart University Science and Technology Annual Research Symposium
    • 発表場所
      Bangkok, Thailand
    • 年月日
      2016-06-02 – 2016-06-02
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Simulations of proton transfer and energy transfer in excited states2016

    • 著者名/発表者名
      S. Saito
    • 学会等名
      9th International Meeting on Photodynamics and Related Aspects
    • 発表場所
      Mendoza, Argentina
    • 年月日
      2016-05-09 – 2016-05-13
    • 国際学会 / 招待講演
  • [備考] 斉藤真司 webpage

    • URL

      http://dyna.ims.ac.jp/shinji/index.html

  • [備考] 斉藤グループ webpage

    • URL

      http://dyna.ims.ac.jp/NewHP_Group/

URL: 

公開日: 2018-01-16  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi