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2019 年度 実績報告書

構造揺らぎ・構造変化に基づく生体分子の機能発現の理論的解明

研究課題

研究課題/領域番号 16H02254
研究機関分子科学研究所

研究代表者

斉藤 真司  分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 教授 (70262847)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2021-03-31
キーワード機能発現 / 励起エネルギー移動 / 概日リズム / 一分子速度論 / 構造変化 / 動的乱れ / 分子動力学シミュレーション
研究実績の概要

本研究では、生体分子系の機能発現および一分子反応論に関する研究を進めている。
生体分子系の機能発現に関して、光合成系における効率的励起エネルギー移動(EET)の解明に向け、Fenna-Mathews-Olson(FMO)タンパク質におけるEETを解析するためのシミュレーションの開発を進めてきた。その結果、FMOタンパク質における各色素の励起エネルギーに依存するエネルギー揺らぎが効率的EETに重要であることを世界で初めて明らかにした。また、時計タンパク質KaiCの概日リズムの解明に向け、ATPの加水分解・リン酸化、KaiCの構造変化、KaiAおよびKaiBの離合集散を考慮した数理モデルを提案した。さらに、ポリセオナミドBの脂質二重膜への侵入過程に関する分子動力学計算および自由エネルギー計算により、ポリセオナミドBの脂質二重膜への侵入に関する分子機構を明らかにした。
構造変化や反応の一分子速度論に関する研究として、構造変化により反応が揺らぐ場合の反応速度を求める理論計算の枠組みを開発した。開発した解析手法をBPTIタンパク質に応用し、構造揺らぎによる反応速度の揺らぎ(動的乱れ)を解析することが可能となった。さらに、反応速度を定数として扱えない過程(非ポワソン過程)においては、反応や構造変化が間欠的で稀にしか起こらないレアイベントとなる。この観点で、様々な温度の水のダイナミクスを解析し、温度低下に伴い水の局所ネットワーク構造変化が非ポワソン過程へと変化していることが明らかになってきた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

Fenna-Mathews-Olson(FMO)タンパク質における励起エネルギー移動(EET)の計算手法の開発を進めた結果、各色素における励起エネルギー揺らぎが効率的EETに非常に重要であることを初めて明らかにした。FMOタンパク質に見出した高効率EETの分子機構がFMOタンパク質に限定的なものか、他の光合成系に見られるより一般的な機構であるかを明らかにするため、高等植物におけるEETの研究を開始した。
構造変化や反応の一分子速度論に関する研究として、反応速度が構造に依存することから、時間とともに揺らぐ反応速度の理論計算の枠組みを開発した。その結果、反応や構造変化における静的・動的乱れを解析することが可能となった。これまでに、解析的なモデルを作成し、それに対する理論計算が行われていたが、分子動力学計算の結果を解析する手法はこれまでなかった。本研究により、構造揺らぎと速度揺らぎの関係が明確になってきた。さらに、反応速度を定数として扱えない過程(非ポワソン過程)において、反応や構造変化がごく稀にしか起こらないレアイベントとなる。この観点から、様々な温度の水のダイナミクスを解析し、低温の水の構造変化が実際にレアイベントであることが明らかになってきた。これまで、過冷却液体に対してこのような解析は行われたことがなく、複雑に相関した系の解析に新しい切り口を与えられるものと期待している。以上の成果から、当初の計画以上に進展していると判断した。

今後の研究の推進方策

「光合成系の効率的励起エネルギー移動(EET)の解明」:Fenna-Mathews-Olson(FMO)タンパク質に見出した高効率EETの分子機構がFMOタンパク質に限定的なものか、他の光合成系に見られるより一般的な機構であるかを明らかにするため、高等植物におけるEETの解析手法を開発する。さらに、FMOタンパク質のEETにおける振動の影響について解析を進める。
「反応や構造変化ダイナミクスにおける静的・動的乱れの影響の解明」:2019年度に開発した一分子速度論の解析手法に基づき、水溶液中のBPTIタンパク質における遷移ダイナミクスを解析し、静的・動的乱れの役割等を明らかにする。さらに、イオンチャネル分子(ポリセオナミドB(pTB))において、分子動力学シミュレーションにどのようにイオン透過が進むかを明らかにし、一分子速度論の観点からイオン透過過程における揺らぎの影響等を解明する。さらに、この研究の展開として過冷却液体のダイナミクスの解析を行い、液体状態の構造変化がどのような確率過程の下でおこっているのか等を明らかにする。
「時計タンパク質KaiCの概日リズムの解明」:KaiCの素反応、KaiAやKaiBとの結合・乖離、KaiCの構造変化を考慮したKaiCの概日リズムの数理モデルを構築し、KaiCの概日リズムの分子起源を解析する。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2020 2019 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 図書 (1件) 備考 (2件)

  • [国際共同研究] University California Berkeley(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      University California Berkeley
  • [国際共同研究] Indian Institute of Science(インド)

    • 国名
      インド
    • 外国機関名
      Indian Institute of Science
  • [雑誌論文] Inverse Kohn Sham Equations Derived from the Density Equation Theory2020

    • 著者名/発表者名
      T. Kato, K. Nobusada, and S. Saito
    • 雑誌名

      J. Phys. Soc. Jpn

      巻: 89 ページ: 024301

    • DOI

      10.7566/JPSJ.89.024301

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Site-Dependent Fluctuations Optimize Electronic Energy Transfer in the Fenna-Matthews-Olson Protein2019

    • 著者名/発表者名
      S. Saito, M. Higashi, and G. R. Fleming
    • 雑誌名

      J. Chem. Phys. B

      巻: 123 ページ: 9762-9772

    • DOI

      10.1021/acs.jpcb.9b07456

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] Effect of ion on collective orientation relaxation of water2020

    • 著者名/発表者名
      S. Saito
    • 学会等名
      Dynamics of Chemical and Biological Systems
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Excitation energy transfer in the Fenna-Matthews-Olson protein optimized by site-dependent fluctuations2019

    • 著者名/発表者名
      S. Saito
    • 学会等名
      Indo-Japan workshop on "Frontiers in Molecular Spectroscopy: From Fundamentals to Applications in Chemistry and Biology"
    • 国際学会 / 招待講演
  • [図書] Coherent Multidimensional Spectroscopy2019

    • 著者名/発表者名
      M. Okuda, M. Higashi, K. Ohta, S. Saito and K. Tominaga
    • 総ページ数
      394
    • 出版者
      Springer Singapore
    • ISBN
      978-981-13-9753-0
  • [備考] 分子研 斉藤グループ ホームページ

    • URL

      http://dyna.ims.ac.jp/index.html

  • [備考] 分子研 斉藤真司 ホームページ

    • URL

      http://dyna.ims.ac.jp/shinji/index.html

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公開日: 2021-01-27  

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