研究課題/領域番号 |
16H02257
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研究機関 | 特定非営利活動法人量子化学研究協会 |
研究代表者 |
中辻 博 特定非営利活動法人量子化学研究協会, 研究所, 理事長 (90026211)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | シュレーディンガー方程式 / 化学の支配方程式 / Chemistry Formula Theory / 正確な一般解法 / 予言的量子化学の建設 |
研究実績の概要 |
中辻は2004年に、化学の原理方程式であるシュレーディンガー方程式を解く基礎的一般理論「完員関数理論」をつくり、そののちこれを、日常の化学現象に応用する事のできる理論に展開する研究を行ってきた。本基盤研究(A)はその完成ステージにあたる研究である。 平成29年度は、本研究の表題にある通り、「正確な量子力学原理と化学概念を融合する予言的量子化学の構築」を目指した研究の骨子が完成した。その成果の一部を、 1) Solving the Schroedinger equation of atoms and molecules. Free-complement theory starting from chemistry-formula theory of molecular wave functions 2) Solving the Schroedinger equation of atoms and molecules with the free-complement chemistry-formula theory. First-row atoms and small molecules の2つの論文にまとめ、科学誌、Journal of Chemical Physicsに投稿した。 「化学」の長い歴史の中で最も成功した化学原理は、化学者の直観の源泉である化学構造式や化学反応式と言える。これらをまとめてChemistry Formula (化学設計式)と呼ぶ。その本質は、Dalton以来の原子の局所性とそのtransferabilityにあり、これに基づく分子の電子構造理論として、Chemistry Formula Theory (CFT) を構築した。このCFT自体、MO法ともVB法とも異なる新理論であり、分子の基底・励起状態を共に作ることのできることからも分かるように、大きな包容力のある理論である。このCFT理論にシュレーディンガー方程式の解を作ることのできる中辻の完員関数理論を応用することで、正確な波動関数を化学設計式の持つ数学的構造で計算することができ、定量的な解と同時に、正確な化学概念をも化学者に提供することができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記論文1)に示した、新しい分子の電子構造理論、Chemistry Formula Theory (CFT)は極めて汎用性のある理論であり、普通の有機化合物はもちろん、金属を含む分子、金属―金属結合を含む分子など、従来のMOやVB理論では困難とされた分子もそのまま研究できる。また、これに完員関数理論をアプライすれば、そのような系のより高度な変分解や、exact解までをも手中にすることができるのであるから、これは当初の目的を遥かに上回るものである。 上記論文2)では、シュレーディンガー方程式の正確な解を、LSE(local Schroedinger equation)法に基づくサンプリング法の計算の、「収束解」としてkcal/molの精度を遥かに超える精度で求めることができる新理論を展開している。この理論は常識を遥かに超える重要性を持つもので、exactなシュレーディンガー解を求めるうえで画期的な成果である。これも当初の目的を遥かに上回るものである。 上記論文1)には理論として提案したが、本理論の中の積分できる関数のみを使って変分解を求めれば、CFTを大きくしのぐ信頼度の化学理論が誕生する。この理論を、FC-CFTと呼んでいるが、この理論も将来とても重要に使われよう。この理論結果に、積分できない関数を加えてLSE法により計算してやれば、exact解が得られるわけで、あらゆるレベルの研究が可能である。その研究の計算例はCH分子、C2分子について変分レベルでのextensiveな計算を行ったが、その成果は続けて論文にしていく。また、Cr2, Mo2それらなどの金属間結合にも応用したが、良い見透しを得ている。
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今後の研究の推進方策 |
上に書いたように、本基盤研究は申請書にあるとおりその完成に向けて着実に進行しており、その成果の大きさと、理論の実用性、有用性は、当初の想定をはるかに上回るものであり、今後もっと大きな規模で展開していくことが必要である。本年はこの課題研究の最終年度に当たり、理論・方法としての基礎固め、計算プログラムの体系的構築など、将来の展望を容易にする研究を行う。それと並行して、上記論文1)、2)の続報としてのCFTとFC-CFTの計算例を報告する。また、これらの理論を、広く有機化合物、金属を含む分子、金属―金属結合を含む分子などにも応用する。特に、従来のMOやVB理論では困難とされた分子を積極的に取り上げ、この新理論の能力を積極的にアピールしていきたい。
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備考 |
受賞1) Hiroshi Nakatsuji, "2016 Schroedinger medal of WATOC". 受賞2) Hiroshi Nakatsuji, "The Honorary Medal, De scientia et humanitate optime meritis" (Top Medal of the Czech Academy of Sciences).
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