本年度は、本基盤研究(A)の最終年度に当たり、正確な量子力学原理であるシュレーディンガー方程式の一般解法、自由完員関数理論 (Free Complement theory)がほぼ完成し、全第一周期原子とホルムアルデヒドなどの幾つかの分子に応用して、化学精度を安定に超える計算法として確立された。この成果は、J. Chem. Phys. 149 114106 (2018)に発表した。この様に高い精度の量子化学的計算は、今までに類を見ない成果である。また、このexact theoryと化学概念との融合を目指して、化学者にとって最も有用な化学構造式(Chemical Formula)を量子論的に活写するChemical Formula Theoryを提案した(J. Chem. Phys. 149 114105 (2018))。この理論は、localな原子論とその普遍性に範を置く原子・分子の新しい電子構造理論であり、分子軌道法とも原子価結合法とも異なる。その最初の応用例としてLi、Be原子の様々な基底・励起電子状態を計算した。次にこれを出発関数として、そのシュレーディンガー解をFC法によって計算し、きわめて正確でしかもコンパクトな結果を得た。その成果は、J. Chem. Phys. 150 044105 (2019)に発表した。 Chemical Formula Theoryは、今後、化学者にとって理解しやすい半定量的な汎用性のある電子構造理論として発展していくことが期待される。さらにこれにFC法を応用することによって、exactな波動関数が計算される。これ等の計算から、それにふさわしい正確な化学概念が抽出され、化学を質的にも大きく発展させていくことが期待される。このように、申請者による革新的量子化学が、今後の化学の世界を大きく発展させていく原動力になることが期待される。
|