研究課題/領域番号 |
16H02268
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
福住 俊一 名城大学, 理工学研究科, 特任教授 (40144430)
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研究分担者 |
大久保 敬 大阪大学, 先導的学際研究機構, 教授 (00379140)
山田 裕介 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (30358270)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 電子移動 / 励起状態 / 金属酸素錯体 / 金属オキソ錯体 |
研究実績の概要 |
電子移動過程は光合成、呼吸プロセスなどのエネルギー変換において非常に重要な役割を果たしている。光合成は水を4電子酸化することで酸素を生成して4電子と4プロトンを得る過程であり、呼吸は逆に酸素を4電子還元して水に戻すことによりエネルギーを獲得する過程である。水と酸素との間の4電子・4プロトンの相互変換の間には、様々な金属酸素錯体が活性種として関与している。しかし、金属酸素錯体の電子移動特性、特に多電子移動過程については、エネルギー変換において最も基本的かつ重要なものであるにもかかわらず、まだ不明な点が多い。本基盤研究では、申請者が行って来た金属イオン共役電子移動研究の成果を基に「基底状態及び励起状態の金属酸素錯体の多電子移動精密制御」を行うことを目的としている。平成30年度では、スカンジウムイオンが結合したマンガン(IV)-オキソ錯体の光励起状態が6μsという長寿命を有することを見出し、その高い酸化能力を明らかにした。その酸化能力を利用してベンゼンを吸い酸化できることも見出した。また、様々な金属イオンが結合したマンガン(IV)-オキソ錯体の構造と反応性を明らかにした。さらに鉄(IV)オキソ錯体を触媒として光合成PSIIの反応モデル系を初めて構築することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題では「基底状態及び励起状態の金属酸素錯体の多電子移動精密制御」を行うことを目的としている。基底状態の金属酸素錯体の多電子移動精密制御については多くの研究成果を得た。しかし、これまで金属酸素錯体の励起状態の電子移動過程については全くと言って良いほど未開拓の分野であった。しかし、上述のように平成30年度にはスカンジウムイオンが結合したマンガン(IV)-オキソ錯体を光励起すると長寿命の励起状態が得られることを利用してベンゼンの水酸化を行うことができた。トリフルオロメタンスルフォン酸が結合したマンガン(IV)-オキソ錯体も長寿命となるので、その反応性を明らかにする予定である。今後さらに金属オキソ錯体の励起状態について研究が飛躍的に進展することが期待される。また、様々な金属イオンが結合したマンガン(IV)-オキソ錯体の構造と反応性を明らかにしたので、この研究の発展も期待される。さらに鉄(IV)オキソ錯体を触媒として光合成PSIIの反応モデル系を初めて構築することができたので、PSIとの組み合わせも視野に入れてさらなる研究の発展が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
本基盤研究では、申請者が行って来た金属イオン共役電子移動研究の成果を基に「基底状態及び励起状態の金属酸素錯体の多電子移動精密制御」を行うことを目的としている。基底状態の金属酸素錯体の多電子移動精密制御についてはこれまで数多くの研究成果をあげてきた。金属酸素錯体の励起状態の電子移動過程および光合成PSIIの初めてのモデル系の構築などブレークスルーとなる研究成果を得たので、今後は励起状態の金属酸素錯体の多電子移動精密制御についても研究をさらに発展させていきたいと考えている。一般に金属酸素錯体は不安定であるので、低温での測定が必要となるが、低温で秒レーザー時間分解分光を測定する装置をフルに活用して金属酸素錯体の励起状態の新しい化学を開拓していく予定である。
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