研究課題/領域番号 |
16H02274
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
北村 雅人 名古屋大学, 創薬科学研究科, 教授 (50169885)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 分子触媒 / 水素化 / アリル化 |
研究実績の概要 |
エステル類の触媒的水素化反応は、化学量論量の金属ヒドリド反応剤を用いる非効率的な反応の代替として高い注目を集めている。近年、当該分野において大きな進展があり、現在では高回転数を示す均一系触媒が報告されるに至っている。このような状況下において、触媒開発の焦点は、反応性の獲得から、分子触媒の特徴を生かしたジエステル類の選択的水素化反応へと移行しつつある。しかしながら、高反応性獲得を指向したこれまでの触媒系においてジエステルの片方のみを還元することは容易でなく、その成功例は皆無といえる。これを鑑み、我々がこれまでに開発したケトン類の不斉水素化触媒Ru/BINAN-Py-PPh2を用いてその実現を目指した。その結果、ある種のジエステルの一つだけを選択的に水素化して対応するヒドロキシエステルを得ることに成功した。基質構造活性相関を調査した過程で、高い位置選択性を示すことも明らかになった。今後、不斉反応へと展開する基盤とすることができた。この結果に加えて、我々が開発したCpRu/ジアミジン触媒を用いるアリル位フッ素化反応の開発に着手した。医薬品開発において、キラルフッ化化合物の重要性は高く、その合成素子を供給するTsuji-Trost型反応に高い注目が集まっている。これまでにも関連報告がなされているものの、基質は脂肪族置換型基質に限られている。上記触媒の芳香族置換基質への高い親和性に着目して反応探索を行なった結果、予備的ではあるものの高い位置・エナンチオ選択性で反応性を示すことをみいだすことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、エステル類の水素化反応の確立に取り組み、選択的還元反応への有効性を見いだすことに成功している。アリル位フッ素化反応開発への糸口も掴んでおり、概ね順調に進展していると考えいてる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに引き続き不活性カルボニル基質の不斉水素化反応の基質汎用性の拡大を進めるとともに、触媒構造と反応性・選択性との 相関を再調査することによって触媒の高性能化を目指す。 これに加えて、「DACat機構解明研究」の一環として、光学活性ピリジンカルボン酸/CpRu錯体を用いる脱水型不斉アリル化反応の機構解明研究 に着手する。上記触媒を用いると、様々な官能基を分子内にもつアリルアルコールを、対応するキラル環状化合物へと高い収率、エナンチオ選 択性で変換できる。このなかでも、特にアルコールを求核剤とするアリルエーテル合成を代表にとりあげる。まず、実際系における情報を蓄積 するべく、標準条件下、精密熱量分析により反応のエネルギー関係を明確とするとともに、反応速度論に関する知見をえる。また、基質をエナ ンチオ選択的に重水素標識し、生成物の立体化学を詳細に分析することによって反応経路に関する情報を得る。これらに加えて、NMR実験、X線 結晶構造解析によって触媒の構造的情報を得る。これらの結果と、アキラルな配位子を用いるの構造活性、選択性相関の調査結果と組み合わせ ることにより反応性、選択性発現の根源の理解を目指す。さらに、新規配位子の設計、合成にも着手する計画である。
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