本年度は、これまでに開発した光学活性ピリジンカルボン酸/CpRu錯体を用いる脱水型不斉アリル化反応の機構解明研究を行った。前年度までに得られた配位子構造活性相関情報、錯体構造情報をもとに、πアリル錯体形成のNMRによる追跡、中間体の捕捉によるX線結晶構造解析を行った。その結果、πアリル錯体形成は、ルテニウム上に発生する中心性不斉に基づく二つのジアステレオマーがほぼ等速度で反応することが示唆された。真に働く触媒サイクルを明らかとすべく、まず、反応の速度論実験、速度式解析を実施した。熱量測定によりこれを実施し、反応速度は基質および触媒に対して1次であることから、反応の律速段階をと決定した。次に、キラルな末端オレフィン基質を用いてNMR実験を行ったところ、アリルアルコールのキラリティーに応じてルテニウム上のキラリティー特異的にπアリル錯体を形成することがわかった。これの末端に求核部を導入し触媒反応を行った結果、反応は立体保持で進行し、両者ともほぼ等速度で反応しした。これらのことから、本反応は酸化的付加段階において、πアリル錯体を経由しないσアリル型錯体経路で進行することが示唆された。中間体であるσアリル錯体は極めて活性が高く、基質の求核剤と配位子のクロロ基とのハロゲン結合が触媒サイクルのエナンチオ選択性を決定する。この考えのもと、強いハロゲン結合力をもブロモ置換型配位子、ヨード置換型配位子を合成、反応性調査にふしたところ、反応性、活性の向上が確認され、本触媒サイクルの正当性を示すことができた。量論反応で観測される中間体は反応にはほとんど関与しない。機構解明研究における警鐘を与えるものとしても注目される。
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