研究課題/領域番号 |
16H02277
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柴山 充弘 東京大学, 物性研究所, 教授 (00175390)
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研究分担者 |
Li Xiang 東京大学, 物性研究所, 助教 (30759840)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 荷電性ゲル / 理想網目 / 小角中性子散乱 / 分子ふるい / モジュールポリマー / ポリアクリル酸ゲル / テトラペグゲル / 両親媒性高分子ゲル |
研究実績の概要 |
荷電性高分子ゲルは非常に高い浸透圧を持ち、吸水剤や保水剤として様々な分野で利用されているが、既存の荷電性高分子ゲルは主にラジカル重合法で作製され、形成される網目構造は不均一で制御性が乏しい。そのため、荷電性高分子ゲルの物性理解は殆ど荷電基の種類や濃度の面から行われ、網目構造の観点からの議論は殆どなされていない。本研究ではテトラ型モジュールポリマーを用いた高い均一性・制御性を誇るゲル作製システムを用いて、未だに実現されていない理想網目構造を有する荷電性高分子ゲルを創造し、荷電性高分子ゲルの物性の理解、及び理想網目を利用した応用展開を目指した研究をおこなった。 平成28年度においては、t-ブチルアクリレート(Tetra-tBA)を骨格とするテトラ-tBAゲルを合成し、そのメタノール膨潤ゲルおよび、tBAを脱保護して得られるテトラポリアクリル酸ハイドロゲル(テトラPAAゲル)の物性測定および中性子散乱実験をおこなった。その結果、解離していないテトラ-tBAゲルは、これまで得られている非荷電ゲルとほぼ同様の構造をもち、架橋により不均一性が発現することがわかった。一方、テトラPAAゲルの散乱関数には、荷電高分子溶液や荷電ゲルに特徴的な散乱ピークが存在したことから、荷電基の導入に成功していること、架橋の導入により不均一性が大きくなっていることが確認された。現在、この不均一性を低減できるゲルの調製法の検討をおこなっている。さらに、関連研究として、非荷電テトラPEGゲルを用いた臨界クラスターの構造・物性研究、ヘテロ分子を導入した両親媒性テトラPEGゲルの合成および構造・物性研究をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
均一な網目構造をもつテトラポリアクリル鎖ゲルの合成を目指し、直接法(4分岐ポリアクリル酸の直接末端交差反応)と間接法(4分岐t-ブチルアクリレート(tBA)の合成と、そのゲル化、それにつづくtBAの脱保護)の両方を検討した。シドニー郊外にあるオーストラリア原子力科学技術機構(ANSTO)にて行った中性子散乱実験からは、荷電性高分子に特徴的な構造が観察されたことから、分子構造と電荷による高次構造との関係、および添加塩効果に関する研究を着手した。しかし、一方で、中性子小角散乱で構造を調べる限り、いずれの手法で調製したゲルにおいても欠陥をもたない均一ゲルの実現には至らなかった。この原因の追及と合成法の改良を検討している。一方で、非荷電テトラペグゲルにおいては、臨界クラスターの研究、金粒子によるゲル網目中のプローブ動的光散乱研究など、研究に顕著な進展がみられた。
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今後の研究の推進方策 |
荷電性高分子ゲルの作製システムにさらに検討を加え、より均一性が高く、反応収率が高いゲル作成システムの構築を行うとともに、網目構造・電荷がゲルの物性に及ぼす影響の評価を行う。荷電性高分子ゲルの基礎物性を調べる上での変数として、従来は電荷密度と静電遮蔽距離が主に用いられてきたが、申請者が提案する理想荷電性高分子ゲルによって新たにポリマー体積分率と架橋点間重合度を独立した変数として用いることが可能であるため、pH、塩濃度、ポリマー体積分率、および架橋点間重合度という、4つの変数を任意に調整して荷電性ゲルを作製し、散乱実験から得られる構造情報を基軸に、レオロジー・力学・膨潤・物質拡散の4つの物性試験を行うことで、荷電性ゲルの系統的な物性ライブラリーを構築していく。
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