研究課題/領域番号 |
16H02279
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
木村 俊作 京都大学, 工学研究科, 教授 (80150324)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 分子集合体 / ポリペプチド / ヘリックス / 相分離 / ナノチューブ / ベシクル |
研究実績の概要 |
2種類の両親媒性ポリペプチドを用いて、相分離ナノチューブを作製することを試みた。一つのポリペプチドは、(L-Leu-Aib)6の疎水性ヘリックスを、もう一方は、(D-Leu-Aib)6の疎水性ヘリックスを有しており、それぞれ分子集合化させるとナノチューブの形状をとった。C末端がメチルエステルの場合、2種類のナノチューブを混合して、特定の温度でインキュベーションすることで相分離ナノチューブを得ることができた。一方、それぞれのC末端にN-エチルカルバゾリル基およびナフタルイミド誘導体を結合し、これらを含むナノチューブを作製後、両者を混合して接合したナノチューブを解析したところ、相分離を維持することが困難であることがわかった。具体的には、エチルカルバゾールからナフタルイミドへの光励起エネルギー移動を観察することで、15℃では接合したナノチューブの相分離状態が保たれるのに対し、30℃では2種類のポリペプチドが側方拡散により混合することがわかった。膜中でのポリペプチドの側方拡散が、C末端に芳香族を導入することにより著しく促進されることが示された。次に、(L-Leu-Aib)8の疎水性ヘリックスを有するポリペプチドを用いてベシクルを調製し、ベシクルの物性を解析した。ベシクル内外にカリウムイオンの濃度差を設定して、浸透圧によるベシクル破壊挙動を解析した。その結果、直径100 nm程度のベシクルに5x106 Paの浸透圧がかかってもベシクルは破壊されず、(L-Leu-Aib)8の疎水性ヘリックス同士が、インターディジテート構造をとってタイトに会合していることが示唆された。この結果に基づき、ヘリックスがお互いに少し傾いて会合すると、二つのヘリックスの側鎖のイソブチル基が一列に並ぶことが強固な膜を形成する原因であると考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的の一つに、分子集合体を形成するポリペプチド成分が、相分離あるいは混合することで、それぞれの混合状態に応じたモルフォロジーを形成し、さらに、分子集合体の切断に伴うモルフォロジー変化を誘導する分子システムを確立することがある。これまでは、ポリペプチドの膜内での側方拡散が抑制されており、90℃の高温にすることで初めて成分の混合が可能であった。今回の研究結果から、ヘリックスペプチドのC末端に芳香族を導入することで、ポリペプチドの側方拡散を劇的に促進できることが示された。一方、(L-Leu-Aib)8ヘリックス同士の会合は極めて強く、隣接するヘリックス間でイソブチル基のかみ合わせが良好であるのがその原因であると推察された。これらのことから、C末端に芳香族を有する(L-Leu-Aib)nヘリックスは、側鎖イソブチル基のかみ合わせに基づいて硬い膜を提供する一方、末端の芳香族基が膜のパッキングを緩め、構成成分の側方拡散を誘導できることがわかった。このように、膜の硬さについて相反する因子を明らかにすることができたことから、動的分子集合体システムの分子設計指針の幅を広げることができた。また、ヘリックス部位の構成成分をLeuからVal等に変えることにより、ヘリックスの会合を弱め、構成成分の混合を促進することも可能と考えられる。実際、Valを含むヘリックスを有するポリペプチドを構成成分とすると、膜の弾性率が低下することを見出している。このようにダイナミクス制御した分子集合体の調製指針について、構成するポリペプチドの構造に基づいて分子集合体の特性を制御できる因子を、増やすことができ、今後の両親媒性ポリペプチドを用いた動的分子集合体システムの開発について展望が広がった。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、両親媒性ポリペプチドの疎水性ヘリックス部位が、水中で疎水性相互作用にて会合することを利用して様々なモルフォロジーの分子集合体を調製してきた。次の研究推進として、両親媒性ポリペプチドの親水性ブロックが働いて分子集合体の特性を変える分子システムを開発する。具体的には、曇点をもつpoly(N-ethyl glycine)を親水性ブロックに用いた両親媒性ポリペプチドや、親水性ブロックであるpoly(sarcosine)の末端に、アデニンやチミンなどの核酸塩基を導入し塩基間の水素結合を通した分子集合化などを検討する。これらの研究から、両親媒性ポリペプチドの親水性ブロックおよび疎水性ブロックが共に協働的に働いて分子集合体の特性を制御できる分子システムの開発に繋げ、多様な要求に応えることのできる、動的分子集合体システムを目指す。これらの研究推進には、幾つかの意義がある。一つは、N置換アミノ酸で構成されるポリペプチドは、ペプトイドと呼ばれる特別な特性を示すことが期待されており、ペプトイドの一つとしてpoly(N-ethyl glycine)の特性を新たに見いだす点にある。二つ目に、ペプトイド単鎖では、温度応答性を示さない場合でも、分子集合体表面に濃度を高めて呈示することで、温度応答性を引き出す試みである。三つ目には核酸塩基を用いた相互作用を検討することで、核酸塩基の新たな特性を見いだす点である。プリン塩基とピリミジン塩基とで、分子集合体表面に濃度高く呈示した場合、それぞれの特性が異なる様式で影響を受けることが予想される。これらの分子集合体システムは、いずれも、親水性ブロックの集合化を目指しており、"hydrophilic-region driven segregation"と名付ける新しい分子集合体システムである。
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