研究実績の概要 |
本年度は、共存溶質による分子クラウディング環境、pH、イオン濃度などの化学環境の変化がもたらす非標準構造の安定化エネルギーへの影響を定量的に「得る」研究を中心に進めた。以下に成果の一例を示す。 代謝産物などに代表される分子イオンが共存する溶液環境で、二重鎖構造と非標準核酸構造(四重鎖構造、RNA高次構造など)の安定性を定量的に解析した(Biophys. J., 111, 1350 (2016))。四重鎖構造については、人工塩基を用いてそのトポロジーを固定し、イオンの違いによる熱安定性への影響を詳細に解析した(J. Inorg. Biochem., 166, 190 (2017))。三重鎖構造を形成するペプチド核酸を用いた研究では、pHの変化によるエネルギーパラメータへの影響を明らかにした(Phys. Chem. Chem. Phys., 18, 32002 (2016))。これらの研究成果は、非標準核酸構造の制御を目的とした人工分子を「生む」研究に活用するためのデータベースとなる。 化学環境変化に加え、ガン細胞内での発現量が増大するtRNAによる非標準核酸構造の変化を解析した。その結果、tRNAが新生RNAに相互作用することで、四重鎖構造の形成が有意に減少し、mRNAからの遺伝子発現量が上昇することを明らかにした(Angew. Chemie. Int. Ed., 46, 14315 (2016))。 人工核酸を用いて生体反応を制御する研究にも着手した。標的となる核酸領域に分子間で四重鎖構造を形成する人工核酸を設計し、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来のRNA上に四重鎖構造を形成させた。その結果、RNAの逆転写反応を阻害することに成功した(ChemBioChem., 17, 1399 (2016))。
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