研究実績の概要 |
本年度(平成29年度)は、平成28年度に引き続き、化学環境の変化に応じた核酸構造の多様性に基づく新規の遺伝暗号(Dimensional Code)に関する基礎的な知見を「得る」研究、および分子間の相互作用で非標準核酸構造の熱安定性を調節し得る人工分子を「生む」研究を進めた。以下に成果の一例を示す。 イオンの濃度や種別によって多様な構造を形成するDNA四重鎖構造に関して、その構造様式(トポロジー)による複製反応への影響の度合いを、熱安定性と相関させて定量的に解析した(Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 114, 9605 (2017))。また、細胞内における化学環境の変化として、癌の進行に伴う細胞内カリウム濃度の減少に着目し、DNA四重鎖構造がカリウム濃度の減少に応じて不安定化することで癌関連の遺伝子発現が変動する可能性を見出した(J. Am. Chem. Soc., 140, 642 (2018))。さらに、四重鎖構造を安定化するオリゴエチレングリコールによる化学修飾が、CH-π相互作用により安定化効果を発揮していることを分子動力学計算により明らかにした(Nucleic Acids Res., 45, 7021 (2017))。非標準核酸構造の機能を制御する人工分子として、四重鎖構造に対して相互作用しつつ共有結合を形成する新規化合物を設計・合成することに成功した(Org. Biomol. Chem., 16, 1436 (2018))。また、テトラアルキルアンモニウムイオンや細胞内の分子クラウディング環境を利用することで、核酸の構造や酵素活性を人為的に調節することにも成功した(Chem. Phys. Chem., 18, 3614 (2017)、Biochem. Biophys. Res. Commun., 496, 601 (2018))。
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