研究実績の概要 |
本年度(平成30年度)は、化学環境変化に応じた核酸構造の多様性に基づく新規の遺伝暗号(Dimensional Code)に関する基礎研究を加速させつつ、Dimensional Codeを遺伝子の発現制御に活用する研究を進めた。以下に、得られた成果を記述する。 細胞内の化学環境による核酸構造への影響を直接的に解析するために、NMR解析により高濃度の共存溶質存在下でのグアニン四重鎖DNAの立体構造を明らかにし、その熱安定性に影響する化学的要因を解析した(Nucleic Acids Res. 46, 4301 (2018))。また、分子クラウディング環境では、RNAの高次構造を安定化するマグネシウムイオンが存在しなくても、RNAの構造変化に伴うエンタルピー変化の寄与により、RNAと代謝産物とが高い結合親和性を示すことを明らかにした(Angew. Chem. Int. Ed., 57, 6868 (2018))。これらの基礎研究から得られる知見を基に、細胞内の化学環境を局所観察できる核酸プローブを設計し、細胞質や核などの異なる領域における化学環境の違いを明らかにした(Anal. Chem., 91, 2561 (2019))。また、遺伝子発現制御への活用を目的に、特定の分子に応答したRNAと転写因子タンパク質に由来するペプチドとの相互作用が、転写反応途中の化学環境によって制御されるシステムを構築した(Anal. Chem., 90, 11193 (2018))。さらに、塩基の化学構造変化によって崩れたグアニン四重鎖構造に対し、外部から短鎖の人工核酸分子を加えることで四重鎖構造を補完しつつ、構造の安定化によりDNAの複製反応を制御する技術の構築にも成功した(J. Am. Chem. Soc., 140, 5774 (2018)、Molecules, 23, 3228 (2018))。
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