研究課題/領域番号 |
16H02285
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐伯 昭紀 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (10362625)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ペロブスカイト太陽電池 / 時間分解マイクロ波伝導度 / 非鉛材料 / ホール移動 / 電荷キャリア移動度 / 電荷分離 / 電荷輸送 / スクリーニング |
研究実績の概要 |
有機カチオン・鉛・ハロゲンから成るペロブスカイト太陽電池の登場以降、真の実用化に向けて有毒な鉛を使わない非鉛ペロブスカイト太陽電池の実現が期待されているが、変換効率は鉛系の1/3~1/4程度に留まっている。重要な課題は電荷輸送層を含めた準位アライメントと非鉛ペロブスカイトの安定性であり、新規材料開発に加えて素子の構造・プロセス・電子物性を総合的に理解する必要があるが、複雑性ゆえ極めて困難である。研究代表者は近年、高速スクリーニングと基礎物性の深い理解の両者を可能にする周波数変調マイクロ波複素伝導度装置を独自開発し、有機太陽電池研究で新たな概念を開拓した。本課題では、この手法を非鉛ペロブスカイト太陽電池研究へ適用し、新規評価法の開発と圧倒的速度での発電層/電荷輸送層の探索に加え、繊細な材料・プロセスの中に隠れた基礎学理を探求する。 本年度は、イオンと分子からなるペロブスカイトの特性に着目し、オレイン酸とメチルアミンという低分子を適量加えることで、30℃から80℃までの温度領域で下部臨界完溶温度(LCST)現象が発現し、さらに紫外線照射下において、低温で青色、高温で緑色の発光スイッチングが起こることを見出した。光吸収・散乱・X線構造解析に基づき、低温の溶液中では鉛・臭素・メチルアミンの1次元ワイヤーが形成し、中間体を経て高温で3次元ペロブスカイトナノ粒子が形成する機構を提案した。また、非鉛ペロブスカイトとして期待されているスズペロブスカイトの空気下劣化過程を解明するため、光電子収量分光と時間分解マイクロ波伝導度(TRMC)を用い、素子性能にクリティカルな要素であるエネルギー準位とキャリア移動度の大気曝露による変遷やSnF2の効果について、“分”スケールで評価し、劣化過程の詳細を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
量子ドット(Quantum Dot: QD)は半導体や発光材料として近年注目を集めており、太陽電池膜の作製にも用いられる。一般にQDは分散液中での凝集・沈殿を防ぐため、アルキルアミン等の配位子で覆われており、特にCdSといった無機QDは一旦作成すると非常に安定に保存できる。逆に言えば熱・光・pHといった外部刺激により、QDそのものに動的な挙動を付与するのは困難である。一方、有機分子は柔らかな機械的性質と多彩な官能基・構造に起因し、様々な機能性を有する。本研究ではMAPbBr3のQDにおいて特異な下部臨界完溶現象を見出した。この系は低分子材料のみから構成されているが、添加剤の濃度を制御することでQDの分解・再生に基づく相転移温度を精密に制御することができる。この知見を非鉛ペロブスカイト太陽電池プロセスに応用するため、材料とプロセスのスクリーニングを行う。 また、MASnI3 , FASnI3に SnF2を添加した粉末を再沈法により作成し、分単位でサンプルを大気に曝しつつ測定を行った。PYS測定では、SnF2の有無で多少変わるものの、全てのサンプルにおいて5分以上の大気曝露で価電子帯上端(Valence Band Maxima: VBM)が深くなり、光電子収量が低下した。またTRMC測定ではMASnI3とFASnI3で異なる劣化機構が見られ、特にMASnI3では最初の2分程でシグナルが上昇し、次いで低下するという特異な挙動が見られた。これは、粉末表面でのSn4+を中心とするMA2SnI6相形成によるものと考えられる。一方FA系では類似の結晶相生成は確認できなかった。以上の結果から、Snペロブスカイトは酸素・大気暴露を防げば本質的に安定であることが分かったため、今後Snペロブスカイトの成膜プロセス開発を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのXe-flash TRMCスクリーニングから有力材料候補がある程度絞られており、また高品質膜プロセスも同様に開発中である。特に、Sb/Pb混合比だけでなくハロゲンや有機カチオンを変えた材料を徹底的に評価し、種々のホール輸送層(HTL)と電子輸送層(ETL)に対するTRMC評価から素子効率向上の探索と発電機構を明らかにする。なお、Sb/Pb混合ペロブスカイトでは、通常の有機半導体・無機半導体では見られない特異なTRMC信号が観測されている。この原因を探るため、周波数変調・温度変化・膜プロセス調整を行った評価を進め、非鉛ペロブスカイトの基礎物性を包括的に解明する。SnペロブスカイトではPb系で培ったプロセスと評価技術を応用し、安定に高品質な膜の実現を目指す。また、標準MAPbI3においてさえ、HTLドーピングの役割・ヒステリシスには不明な点が多く、素子性能とリンクした材料プロセス開発と発電機構の解明が急務である。非鉛MASnI3はMAPbI3よりも光吸収の点では優れているが、価電子帯の上昇に起因して素子の開放電圧はMAPbI3の1.0~1.1 Vと比べて0.6~0.7 Vと低い。開放電圧ロスは変換効率に直結するだけでなく、その原因解明は基礎科学的にも重要である。 非鉛ペロブスカイトとして近年、BiやSb系太陽電池が報告されるようになっているが、その変換効率は1-4%程度である。塗布プロセスが可能な材料に絞り、TRMCを用いて最適な組成やプロセスを探索していく。特に組成比については2種類もしくは3種類の材料を混ぜ合わせるだけで数字上は無限の比率が存在する。素子作製ですべてをスクリーニングすることは不可能なので、TRMCによる超高速スクリーニングが有効であると考えられる。
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