研究課題/領域番号 |
16H02288
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
陣内 浩司 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (20303935)
|
研究分担者 |
樋口 剛志 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (50547304)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 高分子材料物性 / 電子線トモグラフィー / 有限要素法 |
研究実績の概要 |
高分子と無機物をハイブリッド化した複合材料(「ナノ複合材料」)は、軽量で高強度という特性を活かし、これまで金属・無機材料しか用いられなかった素材を次々と置き換えつつある。研究代表者は材料の内部構造をnmスケールで3次元可視化できる「3次元電子顕微鏡法(電子線トモグラフィー)」をナノ複合材料に適用し、その構造解析に成果を挙げてきた。本研究では、試料に引っ張り変形を加えながら最大75度まで傾斜させ、同一視野の3次元像をひずみの関数として連続取得できる電子顕微鏡用「試料延伸トモグラフィーホルダー」を開発し、ナノ複合材料の延伸による3次元構造の変化を初めて3次元可視化することを目指す。さらに、このような動的過程における3次元構造観察結果を計算科学と連携させることで、ナノ複合材料の力学物性発現のメカニズムをナノスケールから解明し、軽量高強度なナノ複合材料における構造設計法の確立につなげてゆく。
本研究初年度である平成28年度は、(i)試料延伸トモグラフィーホルダーの設計、(ii)同ホルダーの製作、さらに、(iii)試料延伸トモグラフィーホルダーへの高分子ナノ複合材料の固定法の検討、の3つの事項について検討を行った。項目(i)及び(ii)について、ホルダーの設計・作製と初期動作の確認を行い、電子顕微鏡(TEM)による2次元観察であれば、試料を約8倍まで延伸した状態で同一視野観察が可能であることを確認した。この際、試料延伸を司るホルダーの先端部分(リテーナー)の仕様を何度か変更した。(iii)については、高分子ナノ複合材料試料を超薄膜化(膜厚約100nm程度)にすると、接着剤などを特に使うことなく試料を最小3nmピッチで延伸できることも確認できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度(平成28年度)の研究検討項目については、3項目を設定し、全ての項目について当初予定していた研究事項を達成した。具体的には、(i)試料延伸トモグラフィーホルダーの設計、(ii)同ホルダー製作、さらに、(iii)試料延伸トモグラフィーホルダーへの高分子ナノ複合材料の固定法の検討、である。項目(i)と(ii)については、ホルダーの設計・作製と初期動作の確認を行い、その過程で試料延伸に最も重要なホルダーの先端部分(リテーナー)の改良を行った。その結果、試料ホルダーの傾斜は75度まで可能であること、また、(2次元観察であれば)試料を8倍程度まで延伸ながら構造観察できることを確認した。さらに、この2次元観察の結果から、3次元観察において4倍程度の延伸が十分に可能であることも分かった。この成果は、研究開始段階で想定したホルダーの満たすべき要件、すなわち、最大傾斜角度75度、延伸2倍(ただし3次元観察)、に対して、実際に製作したホルダーが、前者については要求性能を満たし、後者については予定を大幅に超える性能を備えていることを示す。これは、試料の形状を実験を繰り返しながら変更し、それに応じたリテーナー部分の改良を施すことにより実現したものである。項目(iii)については、高分子ナノ複合材料試料を超薄膜化(膜厚約100nm程度)することで、当初予想していた接着剤による固定が必ずしも必要ないことが分かった。これは当初懸念していた試料のホルダーへの固定法に関して大きな進展であり、今後の研究を進めるにあたり、延伸に従って試料が滑る(あるいは脱落する)ことを心配する必要が無いことを意味する。今後は、いかに大面積の超薄切片試料を作製するかを検討することが重要となる。
以上、初年度は十分な成果を出すことができ、研究全体は順調に進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究を進めるにあたり、おおよそ順調に進んだ平成28年度の予備的検討から次のような問題点があることも分かった。すなわち、試料延伸時に試料の微視的変形が場所に大きく依存し、ひずみの正確な定義が困難であることである。これは、試料特有の問題である可能性が高いが(すなわち試料そのものが均一に変形しない)、装置側の問題の可能性も否定できない。つまり、(リテーナーに設けられた観察穴に対する)試料の大きさが相対的に小さく、ホルダー側の機械的な延伸動作に対して試料の均一な延伸が行われていない可能性も考えられる。従って、来年度(平成29年度)は、まず、当初予定していた高分子ナノ複合材料ではなく、試料サイズを大きく取れる高分子キャスト膜を用い、ホルダーの機械的延伸に伴う試料の微視的変形について、試料表面に塗布した金ナノ粒子の移動を実測することにより検討することを予定している。また、試料の大きさを順次変化させ、変形が均一に起こる試料の最適な大きさを決定する。
次に、(本来の研究対象である)高分子ナノ複合材料を最適化した大きさで調整し、その変形の様子をまず2次元で同視野観察し、その後、トモグラフィーによる3次元観察を実現する。2次元の同視野観察は年度の前半で行い、3次元観察は後半に実施する。この部分は、研究代表者と研究分担者(樋口)が進め、想定されるホルダー側の改良などは研究協力者(メルビル:宮崎裕也)の支援を受ける。
3次元同視野観察結果については、データが得られ次第、計算科学(有限要素法、FEA)との連携を直ちに開始し、FEAによる(ひずみ印加時の)3次元画像を実験結果と比較することで、FEAの妥当性について検討を進めていく。この部分については、研究代表者と研究協力者(ブリヂストン:芥川)が担当する。
|