研究課題/領域番号 |
16H02311
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 岳彦 東北大学, 流体科学研究所, 教授 (10302225)
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研究分担者 |
金澤 誠司 大分大学, 理工学部, 教授 (70224574)
矢野 憲一 熊本大学, パルスパワー科学研究所, 教授 (70311230)
金子 俊郎 東北大学, 工学研究科, 教授 (30312599)
伊賀 由佳 東北大学, 流体科学研究所, 教授 (50375119)
宮原 高志 静岡大学, 工学部, 教授 (70239432)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | バイオ流体工学 / 電荷細胞学 / プラズマ流 / 細胞応答 / 電荷輸送 / マイクロジェット / ナノバブル |
研究実績の概要 |
本研究は,電荷と細胞の相互作用機構を明らかにし,新しい学理である電荷細胞学を提言することを目的とする. 平成29年度は,水中の電荷の輸送機構を誘電分極の視点から解析し,電荷輸送時の等価回路モデルを作成した.モデル作成に当たっては,実験結果と等価回路の数値解析結果を比較することで,水の静電容量と抵抗を決定した.また,この数値モデルを利用して,放電時の電極直下の電位の推測を行い,実験では困難であった電荷供給場所の電位の予測に成功した.一方,イオンの運動方程式を考慮した電荷輸送数値モデルを構築し,電荷輸送機構の解明を流体力学的な視点からも進め,円筒容器中心で与えた電荷が短時間で円筒容器内壁に移動し,内壁表面に帯電することを明らかにした.これは,円筒容器外壁を接地電極としているためであり,接地電極の重要性についての知見を深めることができた.さらに,電位計測時に容器壁の影響による遅れ時間の変化があることを発見し,その機構について検証を進めた.同時に容器壁の影響を小さくするために一辺50 cmで深さ7 cmの直方体容器を作成し,容器壁の影響を小さくして電荷輸送特性の計測を進めた.これらの成果を基に,電荷刺激を与える装置を新たに作製し,電荷刺激の細胞応答について検証し,細胞活性化を低下させることなく,細胞膜に微小孔が形成されることを明らかにした.また,電荷刺激を模擬した,パルス状電流刺激により,細胞の遊走性が向上することも明らかになった.電荷刺激輸送に向けたプラズマ生成帯電微細気泡の研究において,帯電量の計測に成功し,一気泡当たり10E-14 C程度の帯電量があることを明らかにし,安定化因子の示唆を得た.さらに,超音波造影剤を用いたマイクロジェット発生法の研究から,ジェット長が気泡径に依存するものの,ジェットの速度は気泡径に依存しないことなども明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度に計画していた,①電荷輸送機構については,誘電分極の視点ならびに流体力学的視点の両面から解析を行い,概ねその機構について明らかにすることができた.②細胞への電荷刺激については,細胞に損傷を与えずに細胞膜に微細孔が形成されることを明らかにした.また,遊走性が向上することも明らかにした.③ナノスケールジェット生成機構については,超音波造影剤によるマイクロジェット生成の解析により,ジェット長さの制御が気泡最大径により制御できることを明らかにした.④帯電気泡の生成については,プラズマにより生成した気泡の帯電量の計測に成功した.以上のことより,計画はおおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,①プラズマナノバブルの細胞表面への配列をより精密に制御するために,平成29年度に発見した新たなナノキャビティーを利用した手法の開発を進める.これにより,ナノバブルと同じ機能を有し,さらに電荷なども安定して輸送できる手法の開発に取り組む.併せて,プラズマが生成する帯電気泡の微細化・安定化機構について詳細な解析を進める.②ナノキャビティー配列によるナノスケールジェットのサイズ・方向制御を行う新たな装置の作製を行い,ジェット特性を明らかにする.形成されるジェットのナノスケール化は与える負圧の大きさで制御できるため,負圧の精密制御法の開発も平行して行う.③電荷刺激を細胞に与えることには成功しているため,作製したナノスケールジェット発生装置を利用した電荷の細胞内への直接注入とその細胞応答について検証する.細胞応答は,遊走性だけでなく,フローサイトメーターによる細胞単位の変化や共焦点レーザー顕微鏡による細胞付着状態の解析などについても検証する.④得られた成果をまとめて,細胞と電荷の相関について明らかにし,新たな電荷細胞学の提言を目指す.
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