研究課題/領域番号 |
16H02316
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
伊藤 衡平 九州大学, 工学研究院, 教授 (10283491)
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研究分担者 |
北川 敏明 九州大学, 工学研究院, 教授 (40214788)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 触媒燃焼 / 素反応 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、触媒反応の簡易系での反応動力学に基づいたメカニズム解明と、メカニズム解明に基づいて実セル上での触媒燃焼を実施した。メカニズム解明では、前年度までに取得した実測値、すなわちDSC内に白金片を固定し、水素、酸素、窒素ガスの混合ガスを流し、PEFC運転温度領域で得た発熱量、その値の変換によって得た反応速度を比較対象とし、この速度を表現できる素反応群を調査した。白金触媒燃焼はLH機構であると、高温の燃焼学分野で一定の知見がある。PEFC温度域と異なるが、この知見に基づき素反応群が気相ガスの吸着、離脱、表面上での乖離、反応から構成されると仮定した。素反応群は、J.Warnatz,1994を参照した。理論計算過程において、特定の反応式が反応全体を律速し、他の反応は平衡で、吸着率は化学種占有と空サイトの合計が1となると仮定した。計算の結果、H_(s)+O_(s)→OH_(s)+Pt_(s)が律速する時に、計算値が実験値と合致し、乖離種HとOから表面でOHを生成する素反応が律束であることがわかった。なお、分圧依存性も計算と実験で概ね合致した。 反応メカニズムに基づいて、実セル上での触媒燃焼を解析した。PEMが正常な、また劣化した場合を想定し、ピンホールありなしCCMを準備し、セルに組み込み、ガスを供給して触媒層温度を計測することで、実際のセルでの触媒燃焼を調査した。また上で得た理論燃焼速度と伝熱計算により触媒層の温度を理論計算した。ピンホールなしの場合には3倍程度、計算温度が実測値を上回った。理論計算において触媒層のガス拡散を省略し、白金表面上のガス分圧を過剰見積したためだと考察できる。ピンホールありの場合、計算温度は実測温度を、供給ガスの流量に応じて過小、過剰見積した。この差異は、様々な要因が考えられるが、流量に応じてピンホール部分のガス流れが変わったことを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述した様に、H29年度目標、すなわち簡易系での反応メカニズム、また実セルでの触媒燃焼のプロセスの解明を、実験と理論の比較により進め、律速過程の特定や、ピンホールでの複雑な流れなど普遍的な知見を得ることができた。 しかし反応メカニズム解析において、活性化エネルギーが計算、実験で73、40kJ/molで差異があった。参照論文の素反応群が数百℃であって、本研究の想定しているPEFC温度より高い。今後は論文調査範囲を広げ、またPEFC電気化学研究者のとの情報交換を進め、より正確な素反応群を組み込んで実験と理論を整合させる。また、ここまでの反応メカニズム解析では簡易数値解析、すなわち特定の反応を律速過程とし、他反応は全て平衡との仮定を置いた。今後は数値解析ツール(KEMKIN)も利用して、より高精度な計算にもとづいて反応メカニズムを検証する予定である。加えて、ガス分圧依存性の探求において、導入した装置によって独立してガス分圧を調整できるようになったので、今後、より正確なガス分圧依存性を計測する。 実セルにおける触媒燃焼プロセスの解明では、触媒層のガス拡散の組み込みが未達成であること、計測条件が無加湿、室温にとどまっている。現在、拡散過程を理論に組み込み、かつPEFC条件を想定した各運転条件下での燃焼実験を進めている。また、上述したように、ピンホールでは供給ガス流量に応じて、この部分のガス流れが方法が反転することが示唆されており、ピンホールの流れを実セルの伝熱計算に組み込む必要がある。 このように幾つかの課題もかるが、課題に対しては現在早急に対処していること、上記研究実績でしめしたようにH29年度目標には概略到達したため「概ね順調」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
H30年度は、PEFC劣化重畳場での燃焼損傷の遷移起点の抽出する。力学的、電気化学的負荷により膜を加速劣化(膜を減肉、ピンホール生成・拡大)させ、同時に触媒層の温度を連続的に計測し、温度の異常上昇から燃焼損傷の起点を抽出する。触媒燃焼にともなう発熱による触媒層温度上昇は、電解質膜が正常で、この透過率が燃焼を律速していれば0.1K程度である。他方、劣化が進展して触媒層がより大きな温度上昇、例えば1Kを示せば混合気形成、気相燃焼に発展したなどと燃焼損傷への起点としてとらえる。 触媒層上の温度の異常上昇は、赤外線熱画像装置、及び可視化セルの作り込みより実現する。赤外線カメラの撮影仕様は、10um空間分解能、10ms時間分解能、10mKの精度とする。可視化セルのガラス窓には赤外線透過材料を採用する。赤外線カメラヘッドに高倍レンズを取り付ける。観察視野は2mm□の触媒層領域を含む5mm□程度とする。狭い領域にして高空間解像度を実現する。触媒層の端からも燃焼損傷が始まるとの報告もあるため周辺も含んで観察する。 セルには二つの加速劣化を与える。一つはカソード電位の周期を周期的に掃引し、すなわちCVモードで電気化学的に加速劣化させる。他方は、供給ガスの湿度を10分周期で切り替えて電解質膜を湿潤乾燥させて応力負荷を与えながら加速劣化させる。この時、ガス組成、セル温度をパラメータに一連の実験を繰り返し、劣化条件や運転条件に対する燃焼損傷への遷移起点、遷移時間との関係を把握する。更に電解質膜の仕様、すなわち膜厚や、人工的に付与したピンホール(したがってガス透過率)もパラメータにして実験する。以上の実験結果を整理して、燃焼損傷遷移へのメカニズムと電解質膜仕様、損傷検知法の提案する。上記の系統的な実験から燃焼遷移メカニズムを得る計画である。
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