研究実績の概要 |
3次元培養の一種であるがん細胞スフェロイドに対して,がん細胞特異的結合ペプチドを探索するためのデバイスを開発した.内部に旋回流を生じる液滴流(スラグ流)を利用して,浮遊状態にあるスフェロイドに対して,ペプチドの付着,洗浄,溶出過程を実行するマイクロ流体デバイスである.付着過程では,適切な内部旋回流によりペプチドをスフェロイドに付着させる.洗浄過程では,付着しなかったペプチドを含む液の液抜きと希釈液との混合,攪拌を1サブプロセスとして,それを複数回行うことにより,洗浄を行う.溶出過程では,付着したペプチドを溶出液を用いて溶出させ回収する. これらの過程を実行するためには,液滴の位置を適切に制御する必要がある.前年度はカメラ画像により液滴の位置を取得し,マイクロポンプとシリンジポンプによりその位置と速度を制御するシステムを開発した.本年度は,その制御系を用いて,洗浄工程のサブプロセスを複数回実行するためのプログラムを開発し,洗浄過程を実現した.また,溶出過程を実現するための流路設計を行い,それを追加したデバイスを開発し,溶出過程を実現した. ファージを用いて,流路のブロッキングができるかを調べた.ブロッキング後に洗浄によりファージを回収しプラークアッセイを行ったところ,検出されるファージがブロッキングしない場合と比較して1/10以下に減少した.ブロッキングが行えてファージが扱えるデバイスであることを確認した.この他,3次元培養で低酸素低栄養状態の細胞にアクセスできるデバイスとプラークアッセイのための希釈系列を生成するデバイスを開発した. ペプチド探索の最終ステップとして,がん細胞に結合するファージ群が提示するペプチド配列を決定する必要がある.そこでペプチド配列を一括で決定するために,次世代シーケンサーの適用条件を検討し,一度に10,000リードの解析を可能にした.
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