研究課題/領域番号 |
16H02329
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
飯田 努 東京理科大学, 基礎工学部材料工学科, 教授 (20297625)
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研究分担者 |
菅原 宏治 首都大学東京, システムデザイン研究科, 准教授 (40270889)
財部 健一 岡山理科大学, 理学部, 教授 (50122388)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 熱電発電 / Mg2Si / 高圧合成 / SPring-8 / ホール効果 |
研究実績の概要 |
(1)新不純物導入による人工的歪導入への局所的高圧下における半導体電子物性:Al添加Mg2Si熱電素子に中性子を照射し一端絶縁化し熱アニールよる回復過程の電気抵抗をホール効果測定により行解析し、熱電素子の電気抵抗が2種類の伝導機構から構成されていることを明らかにした。圧力下のホール効果解析のために科学技術計算ソフトのオリジンを購入した。化学的圧力(元素置換)を実現するための試料準備に小型フライス盤を購入した。 (2)電極―Mg2Si界面の混合層精密調査およびMg2Si粒界精密調査と劣化メカニズム解明:焼成合成による電極付きMg2Si熱電素子の断面透過電子顕微鏡観察から、Mg2Si―金属電極の界面ではNi電極内にMgNi2 合金が形成され、複数の Ni, Mg, Si 三元相 (ω相とη相)から成ることを特定した。また、接触電気抵抗が、界面層の緻密さや厚みと関連する可能性を得た。三元相の全エネルギー計算から、Mg2Si近傍のω相は構造安定であるが、Ni電極に近傍のη相は混合エントロピーの効果を加味しても不安定であることが明らかとなった。 (3)Mg2Si粒内・粒界精密調査による熱電特性向上への電子・格子状態評価:Mg2Si粒内・粒界精密調査による熱電特性向上への状態評価を実施した。粒界の状態変化を高分解能TEMと放射光(SPring-8)により精密に分析した。粒界にはMgOが100~500nmの粒として形成していることが確認された。MgOは高い絶縁性を示すことから、電気伝導の阻害要因と考えられ、パワーファクターの低下の一因であることが示唆された。 (4)Mg2Si高温時界面耐久性向上:Mg2Si熱電変換材料開発では初となる新材料製造プロセス「キャスト合成法」を導入して結晶粒界の安定化プロセス構築の準備を行った。表面モルフォロジー観察を行う目的で、ノマルスキー顕微鏡を導入した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)新不純物導入による人工的歪導入への局所的高圧下における半導体電子物性:Al添加Mg2Si熱電素子に中性子を照射結果では、電気抵抗の第1成分の温度依存性はT1/2に比例し、第2成分は-lnT+T2となることが判明した。第2成分は近藤効果と電子・電子散乱効果の和である。第1成分の物理的説明は、なお考察中である。Al添加Mg2Si熱電材料において、電気抵抗が複数伝導機構から構成される複雑なものであることを明らかにしたのは、Mg2Si系材料に関する限り、本取組みで初めて得られた知見である。本年度は電気抵抗の複数伝導機構を解明するために圧力下のホール効果(室温のみ)を終えたところであるが、Mg2Si:Al熱電素子の電気伝導が2バンドからできていることを、中性子照射と熱アニールによる抵抗の増大、減少変化の全過程の電気抵抗変化を測定、解析することで明らかにした。2バンド伝導は圧力下の電気抵抗低減のミクロな説明に繋がる可能性があり、バンド計算による2バンド伝導の再現の課題が示唆された。 (2)電極―Mg2Si界面の混合層精密調査およびMg2Si粒界精密調査と劣化メカニズム解明:Mg2Si―電極界面を貫通する薄片の採取し、その全領域を透過電子顕微鏡観察する技術を確立した。焼成接合したMg2Si―Ni電極界面の構造組成と電気抵抗との関連を考察するのに必要な観測が実施できた。本年度実施した分析結果から、高温プロセスで形成されたNi電極の劣化が不可避であり、新たな電極形成プロセスが必要であることが示唆され、当初の計画に則した知見取得につながっている。 (3)Mg2Si粒内・粒界精密調査による熱電特性向上への電子・格子状態評価:本年度では、パワーファクターの低下要因である、MgO析出粒の空間的な振る舞いが直接観測できたことから、材料創製へのフィードバックが可能となり、順調にシナジー効果が形成されつつあると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)新不純物導入による人工的歪導入への局所的高圧下における半導体電子物性:初年度に明らかとなった、Mg2Si:Al熱電素子の2バンド電気伝導に関して、今後はその機構解明に向けた取り組みを進める。具体的に検討する内容として、人工的格子歪により2バンド電気伝導がどうなるかをバンド計算により明らかにすること、および、さらに詳しい電気伝導の実験的測定、解析を継続し、2バンド伝導の詳細を明らかにしていくことを行う予定である。 (2)電極―Mg2Si界面の混合層精密調査およびMg2Si粒界精密調査と劣化メカニズム解明:Ni以外の金属を用いた電極形成、高温プロセスを含まない電極作成を、今後実施する計画である。本年度確立した、透過電子顕微鏡観察技術を適用し、界面相の詳細な理解、耐久性に、より優れた電極プロセス技術の提案と実証を目指す。 (3)Mg2Si粒内・粒界精密調査による熱電特性向上への電子・格子状態評価:一般的に軟X線の検出深さは表面数nmであることから、本年度得られた情報は表面近傍に留まっている。このことから、次年度では硬X線光電子分光を用いて、バルク敏感な電子状態解析を行う予定である。
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