研究課題/領域番号 |
16H02339
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
小野 行徳 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (80374073)
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研究分担者 |
堀 匡寛 静岡大学, 電子工学研究所, 講師 (50643269)
Moraru Daniel 静岡大学, 電子工学研究所, 准教授 (60549715)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | フォノン / ドーパント |
研究実績の概要 |
半導体中のドーパント原子は、単一電荷の捕獲が可能であり、このため量子ドットとして機能する。このようなドーパント量子ドットは(人工量子ドットにはない)特有の自由度:格子(原子)振動を有する。例えば、ボロンのような軽元素ドーパントは、局在フォノンモードを有しており、この局在フォノンは正孔による励起が可能である。また、砒素やビスマスなどのイオン化エネルギーの大きいドナーでは、その内殻遷移が特定のバレー間フォノンと非常に強く結合するが、この事実は、ドーパント原子から単一フォノン放射が可能であることを意味している。本研究の目的は、シリコンをベースとして、上述のドーパント原子と格子系との強結合を利用することにより、単一の局在フォノンと伝搬フォノンの生成、伝送、消滅の電気的制御を実証することにある。またこれにより、革新的な低消費電力情報処理技術創生に向けた新たな道標を示すことにある。 今年度、電子流体効果をシリコンにおいてはじめて観測し、フォノンによるエネルギー散逸を避けて電流増幅が可能であることを示した(Nature Communications, 2018)。この結果は、本来、電子の流れの中で熱として散逸するエネルギーを電子―電子散乱を用いて他の電子に移送することにより、電流増幅を実現するというものであり、電子―格子系エネルギー変換において、電子―電子散乱が本質的に重要な役割を担っていることを示しており、ドーパントからのフォノン放出、ドーパントを用いたフォノン吸収を観測するうえで、重要な知見を与えている。 また、高濃度ドーピングしたナノスケールpn接合の低温測定を行い、ドーパント揺らぎに起因するクーロンブロッケード特性を観測した(現在、論文投稿中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ドーパントベースのナノスケールデバイスの作製は順調に進んでいる。現在、第一報告を論文(Applied Physics Letters)に投稿中である。一方、概要の項に記したように、電子-電子散乱を用いたフォノン放出制御可能性を示す結果が新たに得られており、予想外の成果を得ることができた。同結果は、Nature Communicationsに採択され、報道発表を行うとともに、日本経済新聞等に研究成果が掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本年度の結果を受けて、ナノスケールでの電子―電子散乱とフォノン放出との関係を詳細に調べ、フォノン放出制御の可能性を探索する。また、ナノスケールドーパントデバイスの作製を進めるとともに、上記結果をドーパントフォノンへ拡張するための実験を開始する。本計画において、代表者小野は、測定系構築と測定を担務する。一方、分担者、堀は、測定を担務し、分担者モラルはデバイス試作を担務する。
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