本研究で提案・研究を進めてきた半磁束量子回路は、超伝導巨視的波動関数の位相が強磁性体内の交換相互作用によりπだけシフトすることを利用したπシフトジョセフソン接合(以降、π接合)をベースとしている。本研究では、高速動作を念頭に置き、超伝導体‐強磁性体‐トンネル障壁-超伝導体の4層構造を持ったジョセフソン接合を想定した。超伝導体にはNb、強磁性体にはPdNi合金、トンネル障壁はAlOxを用いている。 平成29年度までに、半磁束量子回路の構成法には、いくつかの種類があることを数値計算によって明らかにした。その中で、もっとも高速性と低消費電力性に優れた方式は、従来のジョセフソン接合(以降、0接合)とπ接合、それぞれ1個を超伝導ループに持つ0-π SQUIDを、確立された単一磁束量子回路の単独0接合と置き換える方式である。精度の高い見積もりは今後の課題であるが、1.5倍以上の高速性、7割以上の低消費電力化が見込まれる。回路の重要な品質パラメータとなる電力・遅延積で評価すると、1桁以上の向上が期待できる。 平成30年度は、この半磁束量子回路の具現化を試みた。しかしながら、実際に、0接合とπ接合を同一基板上にパラメータを制御しつつ集積化することは困難である。そこで、π接合3個によって構成されるSQUID(π3 SQUID)を0-π SQUIDの代わりに用いることとした。幾つかのレイアウトを設計し、現在試作を進めている段階である。π3 SQUIDの幾つかは、0-π SQUIDとして振舞うことを示唆する実験結果を得ている。今後は、π接合の作製制御性を高めると同時に、産総研の協力を得て、単一磁束量子集積回路上にπ接合を形成することを計画している。この方法の採用により、直接的に0-π SQUIDの形成が可能となり、一気に集積度の高い半磁束量子回路の作製が可能となると考えている。
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