研究実績の概要 |
IoT無線通信やRF電力送信の分野において注目されているフェイズドアレイアンテナ(PAA)は,RF信号の位相を変化させることにより指向性ビームを走査するものである.我々は,位相を制御する移相器に低損失MEMSスイッチを適用してPAAの高周波回路を簡略化することを目標とし,高抵抗Si,LTCC,有機のそれぞれの基板を用いたMEMS移相器の作製・評価を行った.しかし,移相器表面パターンと裏面グランドを導通するために設けたvia内部の銅ペーストが,MEMSスイッチ作製プロセスの間に溶け出してviaの抵抗が高くなり,移相器の高周波特性が劣化するという問題が発生し,この問題を解決することが必須となっていた.今回は先行研究で問題となったviaの溶解について,TSV技術を用いることで部分的に克服できることを明らかにした.試作した180°switched-line MEMS移相器の測定を行ったところ,Reference-stateおよびDelay-stateのそれぞれの伝送線の挿入損失は1.33 dB (24 GHz)であった.これはシミュレーションとも近い値である.また24 GHzにおいて181.1°の移相量が得られ,シミュレーションの180.0°によく一致した. 試作した移相器を用いたハイブリッドPAAの作製を検討し,接続に必要となるアルミワイヤ接続で発生する損失を評価した.その結果、24 GHzにおいて挿入損失が1.11 dBであり,ハイブリッド実装にアルミワイヤを用いることができることが分かった. 一方,PAAと異なる方式の二種類のアンテナについて基礎検討を行った.一つは流体を用いるもので,広い範囲で周波数を変化させることができることを明らかにした.他は,MEMSアクチュエータを利用した機械振動式アンテナで,高速に広い角度にビームを走査できることをシミュレーションで明らかにした.
|