研究課題/領域番号 |
16H02353
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鈴木 達也 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (50235967)
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研究分担者 |
村瀬 洋 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (90362293)
田崎 勇一 神戸大学, 工学研究科, 准教授 (10547433)
山口 拓真 名古屋大学, 未来社会創造機構, 特任助教 (30745964)
三輪 和久 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (90219832)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 高度運転支援 / 制約充足判定 / 行動変容 |
研究実績の概要 |
本研究では、規範的な運転行動にドライバを誘導すべく、規範運転行動モデル(運転指導員が行うような規範的な運転行動のモデル)に基づいて許容可能行動集合を設定し、許容可能行動集合内に車両挙動を誘導する情報提示・操作介入を実行する制御介入支援を提案sした。支援における一連のプロセスは実時間で実行されるが、ドライバの運転が適切で、許容可能行動集合内に車両挙動がとどまると予測される場合、システムは操作介入等を行わない。一方で、ドライバの運転が不適切で許容可能行動集合外に逸脱すると予測された時点でシステムは操作介入・情報提示等を行い、挙動を修正する。これは、緊急回避のように「こうしなさい」的な強制力の強い協調形態ではなく、規範運転行動から定められる許容可能行動集合と照らして、「こうした方がよいことを早い段階で実行させ、行動を誘導する」という思想を具現化した協調形態である。本研究では、この考え方が運転指導員の指導を模擬した着想であることから、「指導員型(スーパーバイザ型)の運転支援」と呼ぶことにする。指導員型の運転支援においては、規範運転行動により定義された許容可能行動集合から逸脱しないことを制約とするため、緊急回避より広い意味での「安全性」が高い確率で満たされる。本年度は運転シミュレータに提案手法を実装し、(1)安全性の確保、(2)高い受容性、(3)エフォートバランスの可変、(4)行動変容を引き起こす、の4要件を同時に満たし得る可能性を秘めた支援制御手法であることを確認した。特に安全性を確保しつつ行動変容を引き起こせる点については、これまでの他の支援手法にはない特徴であり、今後さらに検討を深めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、(1)安全性の確保、(2)高い受容性、(3)エフォートバランスの可変、(4)行動変容を引き起こす、の4要件を同時に満たし得る支援制御手法の創出を目的として、モデル予測型の制約充足判定に基づいた指導員型の運転支援を考案し、シミュレータに実装して実時間で動作可能であることを確認した。最大の課題はモデル予測型の制約充足判定に必要な計算量の低減であったが、自動車挙動の初期値に対するインバリアント性と二分岐探索を導入することで、10[ミリ秒]=0.01[秒]以内での計算を可能とした。また、40歳以上の被験者20名弱を対象として検証実験を行い、概ね上記の4要件を満たす結果を得ることができた。一方で、長期的な行動変容を確認するまでには至っておらず、今後の課題として残る。また、個人ごとに受容性に差があり、ドライバの個性に応じた支援制御パラメータのチューニングも今後の課題として残る。 実機実験による検証の準備にもとりかかっており、研究室に既存の一人乗り小型電気自動車に周辺環境を検出するためのセンサ装置の装着・動作確認、介入型支援を実現するためのアクチュエータの装着・動作確認を終えた。今後はシミュレータ上に実装した提案アルゴリズムの実車への実装に取り組んで行く予定である。また、システムの内部状態をドライバに伝えるための情報提示デバイスの構築にも取り組む予定である。 以上より、当初の計画と比べて、ほぼ遅れることなく初年度を終えることができたため、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で想定する4つの要件、(1)安全性の確保、(2)高い受容性、(3)エフォートバランスの可変、(4)行動変容を引き起こす、のうち、(1)安全性の確保と(4)行動変容を引き起こす、の2点に焦点を当てて、さらに検討を深めていく。特に行動変容の起こりやすさと支援システムに対する理解度に強い相関があることがアンケート結果等よりわかっており、この点を定量的に解析していく必要がある。そのために認知科学の分野で提唱されている「メンタルモデル」に着目し、支援制御システムの評価に活用したい。分担者の三輪は認知科学の専門家であり、メンタルモデルに関して深い知識を持つ。メンタルモデルとは、システムが何を含んでいるか,システムがどのように動くか,システムがなぜそう動くかに関して,ユーザの理解を反映した緻密な構造として定義されており (Carroll & Olson, 1987)、正確なメンタルモデルは,システムに対する信用・受容の基礎となると言われている。もし、メンタルモデルにより解析で支援手法が望ましくないと判断された場合は、支援手法そのものを見直すことも視野に入れる。結果として、「提案手法による設計」・「シミュレータによる検証実験」・「メンタルモデルによる評価」のサイクルをしっかりと確立させ、知能を持ったシステムと人間との協調システムの設計論確立へとつなげたい。 このような制御工学と認知科学の融合に資する研究課題設定は極めて挑戦的であり、これまでにも目立った成功例は報告されていない。本研究は制御工学と認知科学の専門家同士が運転支援という共通の土俵上で協働することで新たな学理の創造につながる研究になり得ると考えている。今後は三輪の研究グループと合同議論の頻度を増やし、お互いの相互理解に努めつつ、今年度中には共著の論文を執筆する予定である。
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