研究課題/領域番号 |
16H02354
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岸 利治 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (90251339)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | コンクリート / フレッシュモルタル / せん断速度 / ビンガム流体 / レオロジー |
研究実績の概要 |
回転粘度計とMRIを使用して測定された各種サスペンジョンの流動速度分布に関するデータを公表されている文献から多数収集し、それらの流動速度分布の規則性の検討を行った結果、既往の文献のおけるサスペンジョンの流動速度分布約10個の半数が二次関数形で近似できることを発見した。本研究の遂行上、この規則性の本質を見極めることが最終的な到達点の深化に大きく関わることから、さらに残りの半数の流動速度分布の規則性の検討を詳細に行った結果、それらの流動速度分布は三次関数形で近似できることを発見した。また、この規則性は回転粘度計の流動場内の不動領域と流動領域の境界である流動先端で明確に認められる特徴であり、流動速度が増加して流動場が拡大すると、稼働端近くでは流動速度分布の非線形性が薄れて線形分布、すなわち単純ズリに近い流動速度分布となることを確認した。 続いて、これらの流動速度分布の規則性とせん断速度-せん断応力関係である流動曲線との関連性について検討した結果、非ニュートン流体の中でもニュートン流体と同様にせん断速度-せん断応力関係が線形であるものの流動を開始するのに最低限必要なせん断応力である降伏値を有するビンガム流動の流動速度分布は二次関数形で近似できることを確認した。また、流動速度分布が3次関数形で近似できるものは、代表的な非ニュートン流体である偽塑性流動と特異的な非ニュートン流体であるダイラタント流動の2種類であり、偽塑性流動の場合には流動速度の増加に伴って流動速度分布の非線形性が高まるのに対して、ダイラタント流動の場合には流動速度の増加に伴って流動速度分布の非線形性が低下するという特徴的な相違があることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既往の文献のおけるサスペンジョンの流動速度分布約10個が二次関数形もしくは三次関数系で近似できることを発見したこと、また、非ニュートン流体の内、ビンガム流動の流動速度分布は二次関数形で近似でき、流動速度分布が3次関数形で近似できるものは、代表的な非ニュートン流体である偽塑性流動と特異的な非ニュートン流体であるダイラタント流動の2種類であり、偽塑性流動の場合には流動速度の増加に伴って流動速度分布の非線形性が高まるのに対して、ダイラタント流動の場合には流動速度の増加に伴って流動速度分布の非線形性が低下するという特徴的な相違があることを確認したことは、計画当初には想定していなかった学術的に極めて意味の大きい研究成果であり、この部分では当初の計画以上に研究が進展していると言って過言ではない。 一方で、上記の流動速度分布の規則性の詳細検討に多くの時間を費やした結果、セメントペーストの粘度計実験には着手できなかったことは当初の計画通りに進まなかったところであるが、これについては平成29年度に粉体の反応の影響受けないようにするためにセメントペーストではなく反応性がほとんどない石灰石微粉末を用いたサスペンジョンで実験を行うこととしており、研究全体としてはおおむね順調に進展していると考えている。なお、既存のシミュレーションソフトウェアを使用して流動解析を実施したが、これらの解析ソフトでは連続体における力の釣り合いやニュートン流動を仮定したナビエ・ストークス方程式の成立を前提としているので、本研究で審理に迫ることを意図している非ニュートン流動の詳細解析には適さないと考えるに至った。
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今後の研究の推進方策 |
回転粘度計とMRIを使用して測定された各種サスペンジョンの流動速度分布が二次関数形ないし三次関数形で近似できることを発見したことや、これらの事実と3種類の代表的な非ニュートン流動の流動曲線の特徴との関係を明らかにしたことは大いなる成果であるが、これらは回転粘度計の測定結果に対する検討であることから、流動場が同心円状であることの幾何学的な影響を排除した検討となっていないという問題点がある。そこで、回転粘度計の測定結果から幾何学非線形の影響を排除した上で、改めて流動速度分布の規則性を詳細に分析する予定である。 また、回転粘度計の流動場における流動速度分布をMRIで測定する手法では、MRI測定部分が大掛かりであるために、相当に大規模な実験設備を整えなければ自前での実験の実施が困難であることと、トルクが測定できる駆動部と流動速度分布が測定でいる流動場が遠く離れてしまい厳密なせん断速度-せん断応力関係が取得できないということから、石灰石微粉末サスペンジョンを対象として回転粘度計を用いて流動場表面における流動速度分布を簡易に測定できる計測手法の開発を行う。 なお、当初計画では既存のシミュレーションソフトウェアを使用して流動解析を実施することにしていたが、これらの解析ソフトでは連続体における力の釣り合いやニュートン流動を仮定したナビエ・ストークス方程式の成立を前提としているので、本研究で審理に迫ることを意図している非ニュートン流動の詳細解析には適さないと考えるに至ったことから、シミュレーションの実施については当面見合わせることとして、むしろ理論的な検討に注力することとする。
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