研究課題/領域番号 |
16H02356
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研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
渡邊 法美 高知工科大学, 経済・マネジメント学群, 教授 (30240500)
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研究分担者 |
國島 正彦 高知工科大学, 地域連携機構, 客員教授 (00201468)
二宮 仁志 高知大学, 医学部附属病院, 特任准教授 (10764144)
五艘 隆志 高知工科大学, システム工学群, 准教授 (60412441)
小澤 一雅 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (80194546)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 動機付け / 内発的動機付け / 発注者技術者 / 民間技術者 / リスクマネジメント / 階層意思決定構造 / 全体最適 |
研究実績の概要 |
初年度は、第一に、種々の動機付け理論を概括した。日本の建設技術者の動機付けを論じる上で、デシの内発的動機付けも有力な理論であるとの結論を得た。第二に、指名競争入札制度時代と入札制度改革後の、技術者の動機付け水準の変化を考察し、次の四つの仮説-①健全な指名競争入札制下では、a)民間技術者は高い内発的動機付けを持ち、b)内発的動機付けと外的動機付けとの間に好循環が存在、②一般競争入札制度導入後、民間技術者の内発的動機付けが低下、③発注者技術者の内発的動機付けも低下、④日本の公共建設事業と建設業界のパフォーマンスが低下-を設定した。第三に、動機付けの問題をリスクマネジメントの視点から考察する独自の発想を得た。その結果として、①現在の公共調達改革では、非公正な調達リスクの回避に主眼が置かれているが、このリスクの回避の姿勢・施策こそ、技術者の動機付け低下の根源である、②発注者責任とは、リスクの最適化、すなわち、「公正さ・品質・経済性・時間の目的未達成リスクを最適にマネジメントすることによって、公共事業の価値最大化を図る責任」と捉えることが出来る、との結論を得た。第四に、中国東北部のバイオマス発電事業の分析から、階層意思決定構造を有する問題では、全体最適を実現するためには、その「底辺」を支える主体の不安(認知リスク)と動機付けを解明・改善することが不可欠であるとの知見を得た。バイオマス発電事業には、発電者-仲介者-農夫、という階層意思決定構造が存在する。公共事業でも、例えば、公共発注者-民間会社経営者-民間技術者、という階層意思決定構造が存在する。技術者の動機付けを高めることが、階層意思決定構造の全体最適を実現するためには不可欠である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画では、初年度は、①公共建設事業における建設技術者の生きがいの分析枠組みの検討、②公共事業主要主体の特性分析、③近年の米欧公共建設事業における特徴と動向の調査・整理、④行政者・発注者責任の体系化と行政者・発注者責任達成行為の価値計測、を実施する予定であった。実際には、①、②、④の一部の実施に留まった。 この主な理由は、既往研究の中で、日本の建設技術者の生きがい・動機付けを表す上で参考となる研究が皆無であったため、①の生きがいの枠組みの構築が極めて困難であったことによる。まず、建設分野では、独自の動機付け理論は存在しない。既往の研究では、二要因理論(ハーツバーグ)、期待理論(ブルーム)、欲求階層説(マズロー)等の適用性を分析する実証的研究が大部分である。しかし、様々な方々にヒアリングを行う中で、日本人の技術者には、「仕事自体が楽しい」、或いは「一種の使命感」を感じながら、業務に携わっている方々が少なくないことに気付いた。これらの人々の動機付けは、上記の理論では充分に表現できない。デシの内発的動機付けは有力な理論であると考えられるが、その大部分の適用例は教育現場であり、労働者・ホワイトカラーの動機付けに関する具体的分析例は限定的である。このため、建設技術者の生きがいの分析枠組みの検討に長い時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
見かけ上は、研究は必ずしも順調に進捗しているとは言えないが、試行錯誤する中で、独自の視点・アイディアが生まれてきた。①内発的-外発的動機付けの好循環、②動機付けの低下→公共建設事業と建設業界のパフォーマンスの低下、③発注者責任=リスク最適化、④階層意思決定構造の「底辺」を支える主体の不安(認知リスク)と動機付けの解明・改善の重要性、である。これらは、本研究を進めて行く上で鍵を握ると考えられるので、次年度以降は、これらの分析・考察を深めていく予定である。
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