研究課題/領域番号 |
16H02362
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
安原 一哉 茨城大学, 地球変動適応科学研究機関, 特命研究員 (20069826)
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研究分担者 |
小高 猛司 名城大学, 理工学部, 教授 (00252271)
村上 哲 福岡大学, 工学部, 教授 (10261744)
風間 基樹 東北大学, 工学研究科, 教授 (20261597)
兵動 正幸 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授(特命) (40130091)
大塚 悟 長岡技術科学大学, 工学研究科, 教授 (40194203)
仙頭 紀明 日本大学, 工学部, 准教授 (40333835)
松田 博 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授(特命) (50136131)
磯部 公一 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (70452084)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 大規模地震 / 粘性土 / 不安定性 / 沈下 / 対策 / 地震動 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,以下の疑問に答えることにある。:(1)地震時地盤災害に粘性土の影響は,ポジティブかネガティブか?(2)基礎地盤の不安定事象に関与するとき,どのような微視的・巨視的メカニズムで,また,地形・地質的特徴はどのように関わるのか?(3)不安定事象の予測&評価はどうすればよいか?(4)上記を考慮した対策は必要か?必要ならどのような方法か?地震前の軟弱地盤対策や液状化対策に含まれるのか? このうち,(2)については, 簡易な計算によって,2016年熊本地震における益城町の火山灰性粘性土上の住宅の変状に及ぼす粘性土の堆積状況と地下水位の影響を明らかにした。一方,当該住宅地が5%ほどの傾斜地であることを考慮した中空ねじりせん断試験によると,初期せん断が残留変形を顕著にする傾向があることを確認し,傾斜地の残留変形予測の重要性を強調した。また,硬質粘性土による盛土でも,降雨等による浸水で著しく強度が低下することから, 地震時変状予測の必要性を示唆した。また,粘性土を含む砂質土では,粘土分が30%以下でも液状化に類似の挙動を示すことを確認した。(3)については,Newmark 法によって予測された地震時残留変形の計算結果を松尾・川村による安定図表にプロットして不安定性を予測する方法を提案した。また,地震後の短期的及び長期的な沈下については,地形や過圧密比の影響を明らかにするとともに,数値解析的手法と実験結果を定式化した手法による予測方法を提案した。(4)については,2011年東北太平洋沖地震時に河川堤防と近隣家屋への影響対策(堤防の一部撤去,矢板打設そして堤防の回復)の妥当性を実測値と数値解析によって検証した。なお,この成果は,平成30年度地盤工学会関東支部技術賞を受けた。(1)については,これらを総合すると,ネガティブな要因が多いが,ポジティブな要因も明らかにしていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一部の課題を除いて,研究は順調に推移している。その理由は以下の通りである。 本研究の目的は要約すると,大規模地震時における粘性土基礎地盤と粘性土で構築された土構造物の(1)不安定性と沈下のメカニズムと要因の解明,(2)変状予測方法の提案,(3)変状対策法の提案と検証である。このうち,(1)については, 2016年熊本地震における火山灰性粘性土基礎地盤上の住宅を念頭に置き,簡易な計算によって地震時残留変形を予測して,住宅の変状に及ぼす地下水位の影響を明らかにした。ただ,計算対象地盤は盛土を含めた層状地盤であるが,このことの考慮はまだなされていない。一方,当該住宅地が5%ほどの傾斜地であることを考慮した中空ねじりせん断試験によると,初期せん断が残留変形を顕著にする傾向があることを確認するとともに,現地調査から,堆積構造が深く関わっていること推測したが,伴に,検証はまだなされていない。また,粘性土の存在が地震動増幅に及ぼす影響と砂質土の液状化に及ぼす影響については2018年北海道胆振東部地震の宅地災害を対象に検討しているが,結論はまだ得られていない。(2) Newmark 法によって予測された2016年熊本地震における益城町の火山灰性粘性土基礎地盤の残留変形計算結果を松尾・川村による安定図表にプロットして不安定性を予測する方法を提案した。また,地震後の長期的な沈下については,数値解析的手法と実験結果を定式化した手法の両方による予想方法の妥当性を検証している。(3)については,2011年東北太平洋沖地震時に河川堤防で生じた堤防と近隣家屋への影響対策(矢板打設)の妥当性を実測値と数値解析によって検証したが,現在は,地震時前に地盤改良壁打設した場合を想定した数値計算の結果との比較することを試みている。 以上から地震地盤工学へ貢献できる新たな知見と研究成果を挙げつつあると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
1.粘性土地盤における地震動増幅が液状化に及ぼす影響のメカニズム解明:砂質土と粘性土で構成される層状地盤の動的遠心載荷実験によって明らかにする。2.地震動に伴う不かく乱粘性土および砂・粘土混合土の骨格構造劣化,回復及び再構成のメカニズム解明:不攪乱土と,砂・粘土混合土(粘土分30%を限界として)に分けて検討する。また,浸水に伴う硬質粘性土盛土の地震時挙動のメカニズム解明にも挑戦する。3.地震時粘性土地盤と粘性土構造物の不安定性評価:熊本地震における住宅と擁壁の災害事例を念頭において,構造物のロッキングに伴う支持力低下と擁壁土圧増加のメカニズムと予測方法の提案を試みる。4.地震後粘性土の沈下予測:単純せん断試験による不かく乱粘性土の沈下挙動とその定式化,ねじりせん断試験による検討,また,不かく乱高有機質土とシルト質粘性土については,繰返しねじりせん断試験よって検討を継続する。また,地形的・地質的な要因が粘性土の地震後変状に及ぼす影響については,数値解析による検討を継続する。5.緩い傾斜地における地震時粘性土基礎地盤の変状メカニズムの解明:実験的には初期せん断の影響を調べると伴に,これを考慮した残留変形の予測手法の提案を試みる。6.地震時粘性土地盤の変状低減の対策工法の提案:①地震時粘性土地盤上の堤体構造物の変状対策としては,数値実験を実施する。とくに,矢板打設と深層改良壁の打設の地震時変状低減への効果の比較を行う。②一方,住宅など小規模建築構造物については,支持層に届かなくても短い砕石杭を新設構造物の基礎のみならず,既設構造物の周辺に打設することによって変状の低減を図る方法を提案し,その妥当性を検証する。 以上の成果を総合して,“地震時地盤災害における粘性土の役割”を明らかにすることによって,“大規模地震においてさえ粘性土地盤は安全か?”という問いに明快に答える。
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