研究課題/領域番号 |
16H02388
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
長谷川 正 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (20218457)
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研究分担者 |
曽田 一雄 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (70154705)
亀卦川 卓美 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 准教授 (70195220)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 単結晶 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き,ダイアモンドアンビルセルを用いた80ギガパスカル程度までのサブメガバール領域での単結晶育成を行なった.単結晶育成用のダイアモンドアンビルセル用ガスケットの製作,セル試料室内の温度場の均一性と制御性の実現に加えて,特に,最適な結晶成長フラックス剤の探査を行なった.これに加えて,現有の旧型の1段式マルチアンビル大型高圧合成結晶育成装置において前年度に生じた本装置の故障部品の交換と調整を昨年度から引き続き行って修復させた.そして,大型の良質単結晶の育成に用いる新しい大容量試料用の2段式マルチアンビル大型プレス高圧発生合成結晶育成装置の詳細な設計を行うために,予備実験,特に,最適な結晶成長フラックス剤の探査を行なった.以上の2種類の手法を用いて得られた結晶育成と試料評価および第一原理計算を推進した結果,当初の予想に反する最適な溶媒が見出された.この溶媒をより一層高い圧力領域での結晶育成に適用することによって新たな金属窒化物の発見とその結晶育成につながることが期待されたため,大容量2段式マルチアンビル大型プレス高圧発生合成結晶育成装置を再度設計し製造完成させた.以上の結晶育成手法を用いた結果,前期遷移金属窒化物において,新しい単結晶と全く新しい結晶構造の新物質を発見した.さらに,結晶構造と電子構造および力学物性や光学物性とそれらの異方性といった基礎物性の精密測定・解析を系統的に行なった.特に,Spring8やAichiシンクロトロンなどの放射光施設を利用して,ダイアモンドアンビルセルで得られた微小試料の電子構造解析技術をほぼ確立し,微小試料でも十分に議論に耐えられる実験結果を得られるようにした.さらに,関連物質であるリン化物や硫化物の研究も推進し,これらの結果と前年度と従来に見出された遷移金属窒化物とも比較して,遷移金属窒化物の結晶化学の解明を進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最も重要な研究項目は,遷移金属多窒化物の物質科学を格段に進展させるための精緻な研究を推進できる超高圧結晶成長プロセス・手法を開発することである.そして,良質単結晶試料を用いた測定による揺るぎない信頼性の高い実験データを取得することである.これに対し,圧力領域に応じてダイアモンドアンビルセルとマルチアンビルプレスの2種類の超高圧発生装置を用いて,超高圧高温下で結晶成長できる技術の開発を進めることができた.特に,溶媒法単結晶育成には必須となる最適な溶媒を見いだすことに成功したことは重要な成果である.さらに,これを実際に超高圧領域でのマルチアンビルプレスを用いた同物質群の単結晶育成に適用するために, 2段式マルチアンビル大型プレス高圧発生合成装置の詳細な設計をして製造完成させたことは,重要かつ大きな進展である.また,これらを用いて,様々な前期遷移金属多窒化物において新物質の合成に成功するとともに,明瞭な晶癖がみられる単結晶の育成に成功した. そして,結晶構造を明らかにするとともに,弾性率などの基礎物性や圧縮特性の異方性などを解明した.また,超高圧力領域での相安定性を超高圧その場測定によって明らかにした. 特に,Spring8やAichiシンクロトロンなどの放射光施設を利用して,超高圧領域で得られた極微小試料の電子構造解析技術をほぼ確立したことは,十分に信頼性の高い実験結果と第一原理計算結果をもとに電子構造の解明を可能とし,微小試料しか得られない超高圧科学にとっては極めて重要な進展である.さらに,第一原理計算を用いて,電子構造を解明して電気的磁気的物性を予測した.また,これらの成果を国内外の関連会議や学術論文として発表することができた.このような単結晶試料の育成とそれを用いた一連の系統的な解明は,同物質群では世界で初めての成果であり,当初の計画とおり研究が進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験的および理論的研究成果と問題点を再度チェックし,研究の最終目的を達成するために,結晶育成・評価・解析の観点から考察して研究を推進する.結晶育成に関しては,超高圧領域を扱うため,対象物質次第では技術的な壁にぶつかることも考えられる.その際は,超高圧領域の研究などで顕著な業績があり,代表者らとすでに共同研究の実績がある国内外の研究者に技術的なサポートを要請して問題を克服する.さらに,これまでも実際に綿密に連絡を取り合っているダイアモンドアンビルセルやマルチアンビル大型プレスを製作している企業と今後も連絡をとり,あらゆる技術的ノウハウを駆使して問題を克服する.各分野の専門家が常に有機的に連携して,実験研究に理論計算解析研究を加えて,系統的かつ包括的に研究を進める.これまでに確立した超高圧結晶成長手法を用いて,遷移金属多窒化物の試料を系統的に次々と合成・結晶育成する.高圧その場ラマン測定や高圧その場放射光X線回折測定を行い,相変化や結合の変化および相安定性と結晶構造を解析する.常圧回収した試料を用いて,放射光施設を利用したXPS・UPS測定実験を行い,結合状態,特に窒素間結合と電子構造を解析する.さらに,常圧回収試料のTEM高分解能観察とTEM-EELS測定等を行い,精密結晶構造解析と結合状態解析を行う.結晶構造を基に,win2kなどの第一原理電子構造計算プログラムを用いて電子構造と結合状態を解析し,各実験結果と比較・検討する.遷移金属多窒化物について,窒素間結合状態,メガバール 超高圧高温下での相安定性,結晶構造,電子構造を包括的に解明する.同物質群の相安定性を結晶構造と電子構造の系統性から理解する.遷移金属多窒化物の構造物性の理解をより深めるために,遷移金属のみならず典型金属の窒化物に加えて,酸窒化物やリン化物などの関連物質も研究対象として研究を展開する.
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備考 |
あいちサイエンスフェスティバル2017 サイエンストーク 11/17(金)「ダイアモンドで創る超高圧力の世界~沈む氷。 目の前に広がる100万気圧の世界~」ゲスト:長谷川正(名古屋大学大学院工学研究科教授) https://aichi-science.jp/event/detail.html?id=975
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