研究実績の概要 |
本年度は、昨年度より検討してきたCa-Mg系シリケートについて、Ca3MgSi2O8の結晶構造データを用いて強い結晶場の効果が期待されるCaサイトを予想するとともに、合成した粉末試料の結晶構造解析結果を用いて、発光サイトに占有するEu2+の配位環境と発光波長との関係を詳細に検討した。水溶液法を用いてCa濃度に対してEu2+賦活量を50at%まで増加させた試料を作製し発光特性を評価した。Eu2+量の増加に伴い、4f-5d準位間の電子遷移に伴う発光ピークは波長485nm(青緑色)から520nm(緑黄色)へとシフトすることを確認した。このピークシフトとEu2+量との関係を理解するため、リートベルト解析により3つのCaサイトでのEu2+占有率を評価した。その結果、青緑色発光を示す低Eu2+賦活試料ではEu2+は多面体体積が大きくボンドバレンスサム(BVS)の低いCaサイトを優先的に占有するが、賦活量の増加に伴いEu2+は多面体体積が小さくBVSが高いCaサイトにも占有されていくことを確認した。以上より、Ca-Mg系シリケートにおけるEu2+の発光波長の長波長化は、結晶場の強いサイトへのEu2+置換によって生じることを確認した。アップコンバージョン蛍光体では、昨年度までに見出した知見に基づき、新たにZr系複合酸化物の材料探索を行った。Zrに対してMg,Ca,Sc,Zn,Sr,Y,Nb,La,Ce,Gd,Lu,Tiを対カチオンとして選択し、モル比で1:9~9:1の広い範囲で合成を行った。La,Y,Gd以外の対カチオンを用いたとき、これらのカチオンの単純酸化物よりも高い発光強度が確認された。合成した複合酸化物中でLu0.7Zr0.3Oxが最も強い発光を示し、新規高輝度アップコンバージョン蛍光体を見出すことができた。この構造を詳細に調べ、結晶サイト工学をさらに発展させる。
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