研究課題/領域番号 |
16H02392
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮山 勝 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (20134497)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 表面・界面物性 / 構造・機能材料 / 複合材料・物性 / ナノシート |
研究実績の概要 |
平成29年度は、酸化物シート積層構造の制御により積層薄膜の高特性化への設計指針を得ることを目的に、以下の項目を実施した。 1.シート積層薄膜の構造制御と曲げ変形下での電気特性への効果の解明:酸化ルテニウムナノシート(RuO2-NS)の単層極薄膜のプロトン脱挿入による充放電特性を評価した。非常に大きな電流密度による放電でも容量を維持し、短時間で放電が完了する優れた出力特性を示した。また、Ni,Co,Mn系酸化物ナノシート(NCM-NS)積層膜、Al-Mg 層状複水酸化物ナノシート(LDH-NS)積層膜において、曲げ変形下でもほとんど変化しない導電率が示され、ナノシート積層膜に共通した特性であることを確認した。 2.異種薄膜接触界面の構造/物性評価:NCM-NS積層膜は液体電解質中で同物質の粉体と同様な充放電挙動を示すことを確認した。基板上にNCM-NS積層膜正極、RuO2-NS積層膜負極を設け、両電極をLDH-NS積層膜固体電解質で被覆した全無機固体電池を作製した。この電池は空気中測定で、曲げ変形下でも平面形状時とほぼ同じ放電容量を示したことから、ナノシート積層全固体電池の作製に成功した。 3.異なる物性のシートから構成される薄膜の形成と新規な物性の探索:電極活性のあるRuO2-NSと、イオン伝導体のLDH-NSの複合シート積層体を作製し、複合比と物性の相関を調べた。LDH-NSモル分率が33%まで増加しても複合体の放電容量は大きな減少を示さず、RuO2-NS質量当たりの放電容量は複合化により増大することが分かった。 4.各種層状構造酸化物の層間剥離とシート再積層化および物性予測:ナノシート形成プロセスによる構造変化と欠陥生成について調べ、Mn-Ni 酸化物ナノシートNi溶出による欠陥形成が確認された。結晶構造の変化は生じておらず、シート積層体のイオン伝導性向上等が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年度は、1.シート積層薄膜の構造制御と曲げ変形下での電気特性への効果の解明、2.異種薄膜接触界面の構造/物性評価、3.異なる物性のシートから構成される薄膜の形成と新規な物性の探索、4.各種層状構造酸化物の層間剥離とシート再積層化および物性予測、を対象に研究を進めた。 1.シート積層薄膜の構造制御と曲げ変形下での電気特性解明では、シート積層膜の厚さが薄いほど電極出力特性が増大し、1 nm程度の極薄膜では極短時間での充放電が可能であることを明らかにした。さらに、Ni,Co,Mn系酸化物(NCM)とAl-Mg 層状複水酸化物(LDH)においても、ナノシート積層膜が曲げ変形下でも導電性変化がほぼないフレキシブルな電極特性を示すことを確認できた。 2. 異種薄膜接触界面の構造/物性評価では、すべてをナノシート積層膜としたNCM-NS | LDH-NS | RuO2-NSの構成の電池の作製と物性評価により、単独種の膜と同様なフレキシブル特性を示す全無機固体電池の形成に成功した。 3. 異なる物性のシートから構成される薄膜の形成と新規物性の探索では、電極物質と固体電解質のナノシート複合体(RuO2-NS/LDH-NS)において、RuO2質量当たりの電気化学活性が向上することを見出した。異種ナノシートの相互作用により新規物性発言が可能であることを明示した。 4. 各種層状構造酸化物の層間剥離とシート再積層化および物性予測では、Mn-Ni 酸化物ナノシートにおいて初めて意図的な格子欠陥導入に成功した。電子導電性やシート垂直方向でのイオン伝導性の変化が期待され、シート物性制御の指針を示した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、フレキシブルデバイス応用に向けた曲げ変形のデバイス特性への影響の評価を行い、シート積層全固体デバイスの有効性を提示する。 1.プロトン型電気化学キャパシタ・電池:電子・プロトン導電性電極としてRuO2、H(Co1/3Ni1/3Mn1/3)O2、プロトン導電性電解質としてAl-Mg 層状複水酸化物を用いて構成する。電極・電解質膜からなる一つのセル(基板を除く)の厚さを1~数マイクロメートルとする。定電流充放電試験、カレントボルタモグラムにより特性評価するとともに、抵抗成分の分離、律速過程の判定を行う。作製した全固体デバイスにおいて、無変形・曲げ変形時の上記物性の変化を調べ、変形の影響を総合的に評価する。さらに、同一基板面上に電極を水平配置型とした構造に加えて、電極層を対面配置型とした構造の素子を作製し、比較検討する。前者の構造では電極間距離が大きくなる課題があるが、後者の構造では、電解質層を薄く形成でき体積エネルギー密度を向上できる利点がある。また、水分子が電解質層に含まれると充電電圧が水分解電圧以下に限られるため、水分子を含まないプロトン伝導体を探索する。これにより、大電圧での充放電を可能にし、エネルギー密度の増大を図る。さらに、セルの重量エネルギー密度増大と優れた耐曲げ変形特性の両立に向けて、負極にプロトン活性物質を含む電子導電性ポリマーを用いた電気化学キャパシタの設計と評価も試みる。 2.リチウムイオン電池:スピネル構造リチウムマンガン酸化物およびチタン酸リチウムを正極・負極とし、それらの微結晶電極層の間にリチウムイオン導電性電解質であるモンモリロナイトLiイオン交換体ナノシート積層膜を挿入したリチウムイオン電池を構成する。電極/電解質の界面抵抗の低減のために、酸化マンガンナノシートを界面に挿入した構造の形成と評価を行う。
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