酸素,窒素等の軽元素や鉄,ジルコニウム等の遷移金属が固溶する純チタン基焼結材において,20%を超える伸びと汎用チタン合金を凌駕する高強度が同時に発現する特異な力学挙動を解明すべく,冷却時の局所相変態,固溶元素の再配分等の複雑現象をその場構造解析と計算科学により明らかとし,チタン材の高強靭化に係るダイナミクスの包括的理解を通じた新規材料設計原理を構築する.H31年度の研究を通じて得られた主な成果は次の通りである.これまでの酸素や窒素と異なり,全率固溶型元素であるジルコニウムZrを新たに加えた2相Ti合金における固溶量―格子定数変化量―強度特性の相関に関する実験データベースを構築し,Labuschモデルによる固溶強化量の予測精度を検証した.Ti粉末とZrH2粒子を出発原料とした焼結体では,固溶限を超えた水素成分がTiとの化合物(δ相)を生成するが,その分解温度を超える温度域での真空熱処理により試料中から水素成分は十分に除去されてTi-Zr系焼結材の作製に成功した.その際,α-Ti結晶粒界近傍でのZr成分の濃化を解消すべく,β相温度域での均質固溶化熱処理と続く急冷処理(水焼入れ)を施した.Zr固溶量が異なる試料の引張試験結果に基づく実験データベースを活用し,LabuschモデルにおけるFm値2.67×10-13 Nを導出してZr固溶強化量を算出した.続いて,Ti-ZrO2焼結材の強化機構を定量的に解明した結果,0.2%耐力の全増加量のうち約80%が酸素固溶強化によるものであり,Zr固溶強化と結晶粒微細化強化は10%程度と限定的であった.さらに,純Ti粉末にZrH2とTiO2を配合することでジルコニウムと酸素の各元素含有量を独立に制御し,得られたTi-Zr-O系焼結合金は,耐力1158 MPa,破断伸び13.1%と高強度と高延性を兼備することを実証した.
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