研究課題/領域番号 |
16H02411
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
邑瀬 邦明 京都大学, 工学研究科, 教授 (30283633)
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研究分担者 |
深見 一弘 京都大学, 工学研究科, 准教授 (60452322)
北田 敦 京都大学, 工学研究科, 助教 (30636254)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 金属生産工学 / 金属電析 / 電気めっき / 金属錯体 / 溶液化学 / イオン液体 / 非水溶媒 / 多孔質電極 |
研究実績の概要 |
本研究は、(1)イオン液体系の非水電析における錯体のカチオン化と低対称化、(2)グライム系の非水電析における錯体の低対称化、(3)溶媒分解抑制のためのナノポーラス電極制御が柱である。錯体のカチオン化や低対称化により電析速度を制御しようとの戦略である。 課題(1)と(2)に関連し、今年度はとくに、グライム浴からのアルミニウムならびにリチウム電析に関して、応用展開に着手した。昨年度購入した示差走査熱量計(DSC)に加え、示差熱天秤(TG-DTA)を導入し、イオン液体に比べていくぶん揮発性のあるグライム浴の熱的特性を把握した。X線光電子分光等の手法により電析物の純度を調べた。昨年度までに得られていた電析アルミニウムは黒色外観だったが、予備電解を行い、添加剤を探索し、さらに電析波形を制御することで銀白色の外観をもつアルミニウム皮膜を再現性よく得ることに成功した。これを受け、カーボンナノチューブとアルミニウムの複合めっきなど、新しい試みも始めている。 課題(3)ではまず、亜鉛電析について、放射光を用いた亜鉛イオンの状態解析を行った。その結果、価数ゼロの亜鉛錯体のポア内部への濃化が、実際に起こっていることを確認した。また新たに、希土類およびその合金を水溶液からポーラス電極へ電析することを試みた。ボルタモグラムや析出物の解析など、多角的な検討の結果、ポーラス電極による水素発生の抑制は確かに見られるものの、金属状態の希土類やその合金(ここではCo-Tbを検討)が電析しているとの証拠は得られなかった。 以上から、水溶液の場合、電解質の濃厚化が電析物平滑化の鍵であるとの感触を得た。これを受け、(a)濃厚な塩化カルシウム水溶液を用いた銀の平滑置換めっき、および(b)濃厚硫酸亜鉛水溶液からの添加剤を用いない平滑亜鉛電析といった応用研究を始めた。前者に関しては、特許出願にまで至っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
イオン液体やグライムを電析溶媒とするマグネシウム電析やアルミニウム電析に関しては、電析浴中の錯体の形態と電析挙動の相関が明らかとなった。電池への展開にはまだ着手できていないものの、当初は平成30年度に検討するとしていた添加剤探索の結果、グライム浴からのアルミニウム平滑電析を実現した。添加剤の作用機構は未解明だが、アルミニウム電析に関しては研究が一段落したといえる。 多孔質電極を用いた金属電析に関しても、亜鉛錯体のポア内部での濃化を直接観察するなど、錯体化学種と電析挙動の相関を明確にして体系化をはかるとする当初目標に近づく成果が得られている。水溶液からの希土類電析という挑戦的な試みは、金属電析の観点からはうまくいかなかったものの、多孔質電極を用いることで水の分解(水素発生)が実際に抑えられていることが明らかとなった。 当初想定していなかった研究の展開として、濃厚水溶液に特化した電析プロセスの開発がある。特に、濃厚な塩化カルシウム水溶液を用いた銀の平滑置換めっきは、特許出願を行い、論文も現在執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
グライム浴からの金属電析については、アルミニウム電析が一段落したことから、電池技術ともかかわる他の活性金属(ナトリウムやカルシウム)の電析に展開したい。また、グライム類の鎖長がさらに長い場合(たとえばG5を用いた場合)の電気化学挙動についても、研究展開として興味がある。水溶液系への展開としては、「溶液濃厚化」という視点を新たに加え、金属イオン周囲の配位環境が電析挙動にもたらす影響を系統的に調べる予定である。ここでは、亜鉛のように金属電析の交換電流密度が大きなモデル系としてカドミウムの電析についても検討する。
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