研究課題/領域番号 |
16H02414
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
前 一廣 京都大学, 工学研究科, 教授 (70192325)
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研究分担者 |
村中 陽介 京都大学, 工学研究科, 助教 (40756243)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | バイオマス / 熱化学変換 / 成分分離法 / レブリン酸 / 固体酸触媒 |
研究実績の概要 |
本年度は初めにリグニンのアルカリによる溶解と縮合防止の同時達成を検討した。AlCl3を触媒として導入することにより溶解促進と縮合活性サイトの防護を期待した。触媒含有溶液による原料の含浸・加熱処理を試みたが、原料中のリグニンは水との親和性が低いため、有機溶媒/水混合液を使用して試料を膨潤し触媒の活性サイトへのアクセス向上を図った。原料に対して重量比で10%の触媒を添加し160℃または180℃で前処理することにより、続く15% NaOH処理では通常リグニンの溶解が起こらない100℃という低温でそれぞれ53%、86%のリグニンを回収することに成功した。しかし、180℃前処理を施した場合は縮合が進行した。一方で160℃前処理を経て得られたリグニンからは縮合リグニンからは得られない有価物であるバニリンの製造が可能であり、触媒量を原料の20%とした際に回収リグニン率67%、未処理のスギから得られるバニリン量基準でのバニリン収率11%を得ることに成功した。以上より、提案した新前処理法によって、縮合を防止したリグニン溶解の可能性を見出した。 続いて糖からの新接触熱化学変換法によるレブリン酸の製造を検討した。固体酸触媒を導入し、Amberlystが目的生成物の製造に効果的であることを確認した。一方で、グルコースからレブリン酸までの異性化・脱水・水和の各反応について検討すると、焼成ゼオライトA-3を使用した場合にはAmberlystでは不可能であった高原料濃度における高い異性化率が達成できることを明らかにした。この結果をもとに、高原料濃度で触媒の交互利用を検討し、原料濃度増加による収率減少を防ぐことに成功した。それぞれの触媒を1 g使用した80℃、150℃の反応により水10 mLに対し2 gのグルコースを原料として目的生成物収率33%を達成し、生産性の向上に寄与した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
リグニン分離においては、これまでにない低温処理での高リグニン収率を達成し、縮合防止に向けても大きな指針を示すことができた。糖からのレブリン酸の製造に関しては、分離の容易な固体酸触媒のみを利用したうえで、原料の高濃度化という大きな課題に対し、原料から目的生成物までの各反応経路における有効触媒の幅広い検討を経て、これまでにない全く新しい反応プロセスの提案し、その効果を示した。加えて、平成29年度に実施を計画していたマイクロリアクターの利用による糖からのヒドロキシメチルフルフラール製造に関しても前倒しで予備検討し、今後の展開に向けての重要な知見を得ることに成功しており、学会発表も行っている。このように、当初計画以上のペースで十分な成果を得ている、
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今後の研究の推進方策 |
まず、成分分離に関しては、リグニンの樹脂原料をターゲットにして、リグニンの架橋縮合を抑制するための、さらなる分離最適条件を検討するとともに、バイオマス濃度の高濃度化についても検討する。次に、マイクロリアクターの利用による糖からのヒドロキシメチルフルフラール製造に関しては、反応管内径、マイクロスラグ長さ、反応場の水相と生成HMFの抽出油相の体積比や流速が収率に及ぼす影響を詳細に検討し、70%を超える収率の大幅な向上方策を明らかにする。一方、リグニンに関しては、熱分析を始めとする各種分析を総合的に実施し、リグニン中の活性点の定量的評価法を確立するとともに、フェノール変性樹脂などの製造条件とリグニン物性の関連性を明らかにし、樹脂原料設計の指針を得る。これによって、バイオマスから高付加価値化成品への変換スキームの基本形の確立を目指す。
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