研究課題
太陽エネルギーを用いて水を分解し水素と酸素を生成する反応は、人工光合成のもっとも単純な例と考えられるが、実際に高効率で大規模に展開できる反応系はまだ開発されていない。研究代表者はこれまで水を分解できる種々の半導体光触媒系の開発を行ってきたが、最近この様な光触媒微粒子を導電性をもつ金属(あるいは炭素や導電性酸化物)等で平面状に固定化した「光触媒シート」を作製すると、効率が飛躍的に向上することを見出した。現状で太陽エネルギーから水素エネルギーへの変換効率(STH)はほぼ1%であるが、本研究課題により、STHが5%を実現できる「光触媒シート」の開発を行うとともに、「光触媒シート」の作動原理を厳密に解明することにより、人工光合成の大規模実現に向けて確固たる学術的指針を確立することを目的とする。平成28年度は「光触媒シート」作動原理解明および太陽エネルギー変換効率向上を目指し、主として下記の課題に取り組んだ。水素生成光触媒の価電子帯正孔と酸素生成光触媒の伝導帯電子を結びつける役目をするコンタクト層は両者とオーミックな接合をしていることが理想的と考えられるが、現実にそのような接合を形成するのは不可能である。実際の系がどのような接合を形成しているかを、個々の光触媒だけを固定化したシートを用いて電気化学的な検討を行った。さらに、現在最も高い太陽光エネルギー変換効率を示す光触媒の有効波長領域は520nm以下である。効率5%以上を目指すには、量子収率を上げるだけでなく、有効波長領域を伸ばす必要がある。研究代表者らは既に水分解反応に有望なオキシナイトライド系材料やオキシカルコゲナイド系材料を見出しており、これらの材料系を「光触媒シート」に展開することによって、有効利用波長の長波長化の検討を行った。
2: おおむね順調に進展している
本課題はおおむね順調に進捗している。光触媒微粒子自体の改良に加え、種々のコンタクト層や表面修飾等の検討によって、従来の光触媒シートに用いていた材料系よりも長波長応答可能な材料系を用いて、水素および酸素の同時生成が確認できる系を構築できつつある。また、電気化学的評価等によって、コンタクト層界面との知見も着実に得られてきている。今後、界面制御や表面修飾、光触媒シートの作製プロセス等を詳細に検討することによって、「光触媒シート」の作動原理解明および太陽エネルギー変換効率向上を達成できるものと期待できる。
合成法や組成制御等も含めた個々の光触媒微粒子の高品質化を図るとともに、コンタクト層の材料選択や構築方法、表面修飾等も含め、光触媒シート作製プロセスを継続して検討を行う。これらの検討を通じて、STHが5%を実現できる長波長応答型の「光触媒シート」の構築を目指し、さらに「光触媒シート」作動原理の確立を、当初の研究計画に則って実施する。
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