研究課題
液酸液水ロケットエンジンの高信頼化・繰り返し運用を目指す宇宙先進国に共通する最大の課題は、燃焼室内壁銅合金のクリープ疲労寿命である。着火・停止による大ひずみ振幅の極低サイクル疲労と定常燃焼中の定応力クリープ変形という、発電プラント等ではあり得ない条件が重畳し、線形損傷則よりもはるかに急速な損傷蓄積が生じる。本研究では、クリープ疲労変形中の劣化損傷プロセスを定量的にモデル化し、広い条件範囲での定量的な寿命予測を行い、最終的には累積する損傷度を非破壊検査により定量的に評価することを目的とした。析出硬化された銅合金と十分に焼鈍された銅合金のどちらにおいても、燃焼サイクルを模擬したクリープ疲労試験において、単純クリープ試験・単純疲労試験と比較し大きな寿命低下が見られた。その原因として、クリープ疲労の各サイクル毎に、大塑性疲労変形の導入により、ひずみの蓄積が大きい遷移クリープが発現することと、クリープ疲労寿命の後期に、疲労亀裂とクリープボイドが合体・連結することで損傷が一気に加速し、破断に至る、ということがわかった。特に焼鈍合金においては、各サイクル毎の大塑性疲労変形の変形応力が大きい場合に、逆遷移クリープが出現することが観察された。その原因として、大きな圧縮応力の負荷による転位導入に伴い加工硬化が生じると,直後のクリープ開始時のひずみ速度は低下するが,クリープ中に転位が回復し変形が容易になり逆遷移クリープが発現する、ということがわかった。以上より、ロケットエンジン銅合金のクリープ疲労における劣化促進機構が解明され、疲労分野に新しい損傷機構の存在の知見をもたらしたことになると共に、今後、次世代ロケットエンジンの根本的な信頼性向上に寄与すると期待される。
2: おおむね順調に進展している
析出硬化および焼鈍銅合金のクリープ疲労における変形・損傷蓄積挙動と、その劣化促進機構の解明については、研究実績の概要に述べたとおりである。この劣化促進機構に基づいて、定量的な寿命予測を行うために、対称三角波形(純粋疲労)と引張ひずみ保持台形波形(クリープ疲労)による低サイクル疲労試験を実施し、ひずみ範囲分割法によるクリープ疲労寿命の予測が可能であることを示した。また、累積する損傷度を非破壊検査により定量的に評価する技術確立のため、クリープ疲労試験を途中で止めて累積損傷度のわかった試験片を準備し、複数の非破壊検査手法により欠陥と信号との対応関係を明らかにし、それを基に燃焼室の損傷度を推測する共同研究を実施している。
クリープ疲労における変形・損傷蓄積挙動と、その劣化促進機構については、大まかな理解が得られてきたところである。今後は、TEMにより、クリープ疲労の各段階での転位構造の発展のようすを詳細に観察し、研究実績の概要で述べたメカニズムの裏付けを行っていく。ひずみ範囲分割法によるクリープ疲労寿命の予測精度を向上することを目的として、アニールされた銅合金と析出強化された銅合金のクリープ成分寿命がクリープ破断延性で規準化することによってユニバーサルに整理できるかどうかを477℃(750K)で検証する。これにより、より高温域におけるアニールされた銅合金のクリープ疲労寿命の解析にも適用できる。また、累積する損傷度を非破壊検査により定量的に評価する技術の確立のため、クリープ疲労試験途中止め試験片に対して、TEM/SEMによる欠陥の微視観察と複数の非破壊検査手法による欠陥信号との対応関係を検討する。これにより、予寿命評価技術の確立を目指す 。
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銅および銅合金
巻: 57 ページ: 掲載決定
材料
巻: 66 ページ: 253-254